ANAホールディングス株式会社(以下ANAHD)は、2020年3月末から2021年月末に手元流動性資金(現金預金及び有価証券)の保有額を急増させました。このような経営方針を取った理由を見ていきます。
結論
- コロナ禍による急速な航空需要の減少に伴う経営難を乗り切るために手元流動性資金(現金及び預金と有価証券合計)の保有割合を増加させました。
- 資金調達は、長期借入金と増資で行いました。
- 返済見込みが立つ企業であれば金融機関は資金を融資してくれます。赤字を出したからすぐに倒産ということにはなりません。
- 現在は借入金の返済を進めていますが、業績が好調なため手元流動性資金は増加しています。
コロナ危機への対応
ANAHDが資金調達を行った理由は、コロナ禍による航空需要の減少に対応するためです。
コロナ禍は2019年12月ごろから徐々に問題視されるようになりました。その後は全世界でパンデミックに対応する動きが活発になり、外出の自粛や国によっては外出制限などの感染症対策が出されるようになりました。
国内でも行動制限が出る状態ですので、国家間の移動はますます難しい時代でした。
ANAHDの業績推移
コロナ禍の背景を踏まえて、ANAHDの業績の推移を確認します。金額の単位は百万円です。
年度 | 売上高 | 最終損益 | 従業員数 |
---|---|---|---|
2018年度 | 2,058,312 | 110,777 | 43466人 |
2019年度 | 1,974,216 | 27,655 | 45,849人 |
2020年度 | 728,683 | △404,624 | 46,580人 |
2021年度 | 1,020,324 | △143,628 | 42,196人 |
2022年度 | 1,707,484 | 89,477 | 40,507人 |
2023年度 | 2,055,928 | 157,097 | 41,225人 |
2018年度(2018年4月から2019年3月)はコロナ禍の影響がない時期です。売上高が約2兆円、最終利益も1,100億円計上されています。
2019年度(2019年4月から2020年3月)は売上高が約1.97兆円と、前年度比で微減ですが、最終利益が270億円と大幅に減少しております。同年(2020年7月17日に提出)第70期有価証券報告書の【事業の状況】(2)経営環境に以下のような記述があります。
航空業界は、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、甚大な影響を受けており、今後も極めて厳しい経営状況が続くと見込まれております。また、感染症の拡大が世界経済を更に下振れさせるリスクも懸念されています。政府による緊急経済対策が計画されているものの、企業収益の低下による雇用・所得環境の悪化、個人消費の低迷による業績への影響は避けられないと考えています。
新型コロナウイルスの感染症の増大が企業業績にマイナスの影響を及ぼしているという認識が示されております。
同社の最終利益が前年比で830億円程度減少した理由は、営業利益が前年比1,050億円減少したことと、減損損失を250億円計上したことが主な要因です。一方、税金の支払いが前年比で170億円減少したことと、補償金を180億円受け取ったことで損失を減らすことができました。
2020年度(2020年4月から2021年3月)は新型コロナウイルスの影響が一番大きかった時期です。売上高が前年比で1.2兆円以上減少し、最終損失を約4,000億円計上しています。
航空事業は多数の航空機を抱えており、飛行機を飛ばさなくても減価償却費が発生します。
また、航空需要がなくても従業員に人件費を支払う必要があります。2019年12月になるまで、新型コロナウイルスは全く想定外の事象でした。コロナ禍以前は業績が良かったため、同社は従業員の採用を積極的に行ってきました。同社は過去最大の従業員を雇用する中でコロナウイルスの影響を受けてしまいました。
減価償却費や人件費といった固定費の負担が重く、営業損益は4,600億円となりました。さらに、リストラに伴う事業構造改革費用を860億円計上しており、このような負担があって、多額の最終損失を計上することになりました。
2021年度以降は、コロナ禍も落ち着きだしたので業績が回復基調になりました。
コロナ禍対応のための資金調達
ANAHDは手元流動性資金(現金及び預金と有価証券)を下記の推移でみられるように急増させました。時期は3月31日で、金額の単位は百万円です。
時期 | 手元流動性資金 | 長期借入金 | 利益剰余金 |
---|---|---|---|
2020年 | 238,647 | 416,900 | 550,839 |
2021年 | 965,719 | 1,168,252 | 145,101 |
2022年 | 950,989 | 1,102,218 | △113,228 |
2023年 | 1,183,723 | 1,017,585 | △21,126 |
2024年 | 1,257,806 | 943,808 | 135,971 |
2020年3月末の現金及び預金と有価証券の合計は約2,380億円でした。それが翌2021年3月末になると9,650億円に増加しています。
2021年6月30日提出の第71期有価証券報告書には【事業等のリスク】の(1)重要事象等についてに以下のような記述があります。
資金面については、4月から6月の3か月間で、民間金融機関及び日本政策投資銀行から、合計5,350億円規模の借入を実施した他、10月に劣後特約付シンジケートローン(4,000億円)、12月から1月に公募増資及び第三者割当増資(2,976億円)により、合計1兆2,000億円以上の資金調達を実施したことから、当連結会計年度末現在においては、十分な手元流動性を確保しています。
銀行から5,350億円を調達したことに加えて、今後追加で資金が必要になった場合、4,000億円以上借りることができる枠を設定しています。さらに2,976億円を増資で調達して、手元資金を厚くしたことがわかります。
手元資金を十分に確保することで新型コロナウイルス感染症が猛威を振るってきた時期を乗り越えたのです。
コロナ禍の影響がほとんどなくなっている2024年3月末時点でも換金性の高い資産を1.25兆円保有しています。長期借入金の返済を行う一方で、キャッシュが増加している理由は本業が好調な結果です。本業が好調なので利益剰余金も増加しています。
長期借入金が9,400億円ほどありますが、手元流動性資金も十分にあるため返済には問題がないと考えられます。
参考
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