いわき信用組合と反社会的勢力の関係:特別調査委員会調査報告書から読み解く

不適切会計

いわき信用組合の不正融資によって捻出した8.5億円~10億円が、反社会的勢力に対する提供資金に当てられていたことが、特別調査委員会の調査報告書で明らかになりました。

反社会的勢力とは、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求し、社会の秩序や安全に脅威を与える反社会的行為を行う集団または個人」を指します。

特別調査委員会報告書では、反社会的勢力として、Σ氏、Σ氏の子、社会運動等標榜ゴロ、いわき信用組合の反社リスト記載の暴力団幹部など、様々な反社と信用組合との関係が克明に記述されております。

2025年10月31日に公表された特別調査委員会『調査報告書(公表版)』に記載されているいわき信用組合と反社がどのような関係にあったのかを記述し、最後に感想をまとめます。

※本記事の内容は、2025年10月31日に公表された特別調査委員会『調査報告書(公表版)』をもとに再構成したものです。記載内容は同報告書の引用・要約であり、筆者の独自見解を述べるものではありません

特別調査委員会組成の経緯

いわき信用組合は、長年にわたり不正融資を繰り返してきました。

2024年11月15日には一連の不祥事の事実関係を調査するために第三者委員会を設置しました。なお不祥事とは、不正融資、元職員による着服横領、これらの組織的隠ぺいなどです。

2025年5月30日に、第三者委員会から調査報告書の提出を受け、同日に公表しました。

しかし、調査報告書のなかで、いわき信用組合は調査への協力姿勢に疑義があるとされ、さらなる追加調査の必要性を指摘されておりました。

そこで、2025年6月30日に、特別調査委員会が組成されました。

特別調査委員会による調査で、いわき信用組合と反社との関係が明らかになりました。

出典:特別調査委員会『調査報告書(公表版)』(2025年10月31日公表)p1をもとに作成。

不正融資の類型

反社への資金提供方法を知るために、同信用組合が行った不正融資の方法をまとめます。

不正融資は、迂回融資無断借名融資及び水増し融資の3類型に分類できます。

迂回融資は融資を希望する組織に対して融資限度額との関係等で融資実行が困難な場合に行われる方法です。すなわち、同信用組合が名目上の融資先に融資を行い、その後名目上の融資先から実質的な融資先へと資金を流す方法です。

無断借名融資特定個人の承諾を得ないまま、当該個人を債務者名義とする融資です。無断借名融資によって捻出した資金を使って、反社に対する提供資金、融資限度額を超えている大口融資先に対する提供資金、別の無断借名融資の利払いや返済を行っておりました。

水増し融資は元役員の交友者の関係会社等に対する融資の実行に際し、融資金額を水増しして融資を実行する方法です。元役員が、債務者から、水増し分の全部又は一部を現金で受け取ることがあり、元役員に交付された水増し分の現金は、反社への提供資金、無断借名融資の利払いや返済に使われます。

出典:特別調査委員会『調査報告書(公表版)』(2025年10月31日公表)p7-9をもとに作成。

反社からの不当要求に対する3億円超の支払(1990年代)

いわき信用組合の反社との関係は1990年代には、始まっていたことがうかがわれます。

1992年から2001年までS氏が理事長を務めておりました。

S氏が理事に就任した1992年当初から、同組合の理事の中には、暴力団関係者との交友関係を有し、融資の実行等に際してその便宜を図る者が存在しており、暴力団関係者との交際を続けるうちに弱みを握られるなどして、金銭の支払を要求される者がいました。

1994年頃には、同組合本部やS理事長らの自宅周辺等において、全国規模の右翼団体により、同組合と暴力団関係者の癒着を激しく糾弾する旨の街宣活動が繰り返されるなどの事態が発生しました。

そのような中、当時同組合の大口融資先であったΣ氏が、S氏らに対し、同組合と右翼団体の仲介役を務める旨を申し出ました。Σ氏は仲介の見返りに街宣活動を中止させるための解決料の名目で3億円超の現金の支払を要求しました。S氏らは、これに応じて、同組合の資産からΣ氏に3億円超の現金を支払ったとのことです。

いわき信用組合内では、Σ氏をすくなくとも暴力団関係者と親交を有する周辺者と位置づけておりました。

S氏が同組合理事長を務めていた当時から、S氏をはじめとする同組合元役員の中には、Σ氏との関係維持に努め、Σ氏に対し、株式投資や同氏の親族が経営する飲食店の運転資金のための融資を繰り返すなどする者がおりました。

2004年11月から2022年6月まで理事長を務め、同月から2024年11月まで同組合会長を務めるE氏においても、当時の同組合役員と共に、Σ氏と飲食し、数回にわたって海外旅行に行くなどの関係にありました。

出典:特別調査委員会『調査報告書(公表版)』(2025年10月31日公表)p11-14をもとに作成。

反社に対する継続的な資金提供(Σ氏、社会運動標榜ゴロ)

Σ氏は、S氏の理事長在任中、断続的に右翼団体の活動が再開される旨を示唆しました(Σ氏と右翼団体の関係は明らかではなく、Σ氏のブラフであったと考えられる)。その解決金をS氏に要求し、合計数億円の支払いをしたことがうかがえます。

そのほか、S氏は、不祥事追及等を主眼とする情報誌の関係者(社会運動等標榜ゴロとして反社に該当し)からも、いわき信用組合関係者による不正を暴くと脅され、1997年頃、担保価値不十分な絵画を担保とするなどして8億円の融資を実行したこともありました(当該融資は、全く元本回収が行われないまま、2004年までに全額償却)。

出典:特別調査委員会『調査報告書(公表版)』(2025年10月31日公表)p14-15をもとに作成。

社会運動標榜ゴロに対する1.5億円の支払(2007年頃)

E氏(前理事長)は、2007年頃、不祥事追及等を主眼とする情報誌(前記載の情報誌とは別の情報誌であり社会運動標榜ゴロであり反社に該当するというべき)の関係者から、元理事長E氏をはじめとするいわき信用組合関係者による過去からの不正を暴く旨脅されて金銭の支払を要求され、これに屈して、1.5億円程度の現金を用意した上、役員のJ氏らにその現金を郡山市内まで運ばせて、上記関係者に支払いました。

出典:特別調査委員会『調査報告書(公表版)』(2025年10月31日公表)p15をもとに作成。

Σ氏に対する1億円の支払(2008年頃)

元理事長E氏は、同級生に中古物件の購入資金と改修費用の融資を行う際に、改修費用を架空計上し、数千万から1億円程度の水増し融資をしました。水増し融資を受けたE氏の同級生から、いわき信用組合の委嘱職員であるΨ氏が現金5000万円を2度にわたって受け取ります。

委嘱職員Ψ氏の運転で元理事長E氏を車に乗せて、公園の駐車場等に連れていきます。車に乗り込んできたΣ氏に元理事長E氏が現金を渡しました(1回につき5000万円を2回にわたって支払う:計1億円)

現金の運搬や車の運転を担当した、いわき信用組合委嘱職員Ψ氏の証言では「E氏が車に乗り込んできたΣ氏に『これで最後だからな。』などと言いながら渡した。」と述べております。

出典:特別調査委員会『調査報告書(公表版)』(2025年10月31日公表)pp15-17をもとに作成。

Σ氏に対する1億円の支払(2016年12月頃)

大手企業が入居する利回りの高い優良投資案件であるNビル案件がありました。Nビルの売買については、元理事長E氏に話が持ち込まれた当初から、Σ氏が関与していたと考えられるところです。

G社に対して、Nビル購入資金の水増し融資を画策します。

G社代表取締役丁氏と出身大学が同じであったいわき信用組合の常務理事・融資部長であった役員T氏が融資実行に向けた交渉を開始します。

Nビルの購入資金と2度にわたる改修工事費用等として合計9億1150万円の融資を実行します。

融資額のうち、3億6400万円は丁氏らが大阪市内のいわゆるB勘屋(脱税等の道具としての架空領収書の発行等を業とする者)から買い取った内容虚偽(架空)の見積書や領収書に基づいて実行しました。

G社は翌年Nビルを売却し、売却益1億1500万円を得ます。また水増し融資分3億6400万円を獲得します。そのうち4000万円が役員T氏に分配され、当該4000万円は役員T氏から元役員らに交付されて無断借名融資の返済や利払いに当てられました。

これが、2016年夏頃以降のΣ氏から元理事長E氏に対する金銭支払要求の引き金となります。

元理事長E氏は、Σ氏から、「役員T氏が、Nビル売買によるG社の利益の中から分配を受けて、組合における一連の不正融資の返済資金に当てた。」などとして、その口止め料としての金銭の支払を要求されるようになります。

元理事長E氏は、2016年夏頃から始まったΣ氏からの上記要求に屈し、同年12月頃、いわき市平地区所在の商業施設の駐車場において、自らΣ氏と接触して、現金1億円を手交したものと認められました。

出典:特別調査委員会『調査報告書(公表版)』(2025年10月31日公表)p17-19をもとに作成。

Σ氏のさらなる資金要求とΣ氏の子への融資

2017年9月頃から、再び、元理事長E氏を脅して多額の現金を支払わせるため、繰り返し、E氏の携帯電話や同組合に電話をかけてくるようになります。

当時の電話でのΣ氏とのやり取りは録音されております。そこでは、2016年12月に1億円を支払い済みであることを伝えながら、暗に、それ以上の支払には応じられないとの意向を伝える状況が録音されています。

さらに、上記録音データには、Σ氏が、E氏を直接脅すことができないことに業を煮やし、役員に対し、「あったまんま放送(注:街宣活動のこと)でされるよ。」、「目の前さ行って、あったことを。お金持って行ったことも何も。それを俺聞いてっから。終わりになっちゃうべ。従業員の前でみんなやられっから。終わりになるよ。」、「本人(注:E氏のこと)がそういう気でいるならば、俺とはもう終わりだから、俺は俺の考えになるよ、Tさん。」、「俺はもう一切構わないよって言うよ。終わりだよ。辞めるようになるよ。行員の前でやられるよ。それは俺聞いてっから。聞いたから、俺言うんだけど。」などと、露骨に、自らの要求に応じないならば、同組合に対する街宣活動を抑え込むことができない旨を述べて脅迫する状況が録音されています。

これに対し、E氏らは、2018年4月、Σ氏の子に3億円の融資を実行するのと同時にΣ氏から、「私は、いわき信用組合に対し、今後一切金銭の要求をせず、いささかの迷惑もかけないことを確認します。」旨記載した確認書の提出を受けるなどして、2017年以降、Σ氏からの金銭支払要求に応じなかったと考えられます。

出典:特別調査委員会『調査報告書(公表版)』(2025年10月31日公表)p19-20をもとに作成。

Σ氏の子に対する3億円の融資(2018年4月)

2018年4月20日、Σ氏の子に対し、水戸市内の飲食店テナントビルの購入資金等として3億円の融資を実行しました(水戸案件)。この融資について、現在は回収が滞っておりますが、あらかじめ回収できないと想定していたかは定かではないと特別調査委員会は評価しております。

一方、そもそも、水戸案件の融資先は、長年にわたってE氏らを脅迫して多額の現金を支払わせ続けてきたΣ氏の親族であり、その属性自体からして、融資実行の是非は慎重に判断されるべきでした。

また、水戸案件の融資実行金額は3億円であったのに対し、融資実行当時の購入対象物件の担保評価額は約5400万円と僅少であったにもかかわらず、返済原資となる賃料収入が減少する事態となった場合の融資回収方法の検討が行われた形跡もありませんでした。

水戸案件における3億円の融資は、Σ氏に今後の不当要求をやめさせることの見返りとして実行されたものとも考えられると特別調査委員会は評価しています。

出典:特別調査委員会『調査報告書(公表版)』(2025年10月31日公表)p31-32をもとに作成。

反社の周辺者に対するその他の融資案件

特別調査委員会の調査の結果、同組合は、いわき信用組合の反社リストに暴力団幹部とし て掲載されている人物からの紹介を受けて、少なくとも、2019年から 2024年までの間に9件の融資(1件あたりの融資金 額は2億円前後ないし5億円程度であり、9件の融資実行金額の合計は28億5850万円に上る。)を実行しているものと認められました。

上記9件のうちの5件は約定通りの返済が実施されず遅延し、さらに、その5件のうちの2件については、破綻懸念先と区分されて大部分が2025年4月に償却処理が実施されているなど、返済状況も芳しくないです。

出典:特別調査委員会『調査報告書(公表版)』(2025年10月31日公表)p32をもとに作成。

弱みを握られ、付け込まれる

反社は人の弱みに付け込んで、金銭を要求してきます。弱みがあるので、反社の要求にしたがってしまいます。

1992年にS氏の理事長就任当初から、当組合の理事の中には、暴力団関係者との交友関係を有し、融資の実行等に際してその便宜を図る者が存在しており、暴力団関係者との交際を続けるうちに弱みを握られるなどして、金銭の支払を要求される者もいた。

出典:特別調査委員会『調査報告書(公表版)』(2025年10月31日公表)p12。

弱みを握られてしまうと、支配関係が成立し、何度も要求をのむことになります。

当初、Σ氏は街宣活動を仲介することを提案し、信用組合側に貸しを作りました。しかし、貸しを作った代償は大きく、それを取り立てられてくことになります。

1度支払うと、その事実が新たな弱みになる

反社に資金を提供した事実は消えません。1度でも資金を支払ったら、次の要求はもっと踏み込んだものにエスカレートしていきます。

反社からの脅しに屈して資金提供を行った場合、そのことも弱みとなり、その後も繰り返し、反社による不当要求の餌食となることは容易に想像できるところである。

出典:特別調査委員会『調査報告書(公表版)』(2025年10月31日公表)p13。

頼みごとを聞いた相手は、それが弱みになって更に反社に取り込まれていきます。

反社が次々と寄ってくる

不正融資を行ったという弱みがあるため、脅されて金銭の支払を要求されてしまいます。

いわき信用組合が反社会的勢力に一度でも資金を支払ったことで、その事実自体が新たな呼び水となりました。特別調査委員会報告書にもあるように、反社との接点を持つと、次々と別の勢力が寄ってくるようになります。

実際、報告書では、いわき信用組合がΣ氏への支払いを行った後、

  • 社会運動等標榜ゴロ(情報誌関係者)への金銭支払い
  • Σ氏の子への融資
  • 暴力団幹部を含む反社リスト記載者への融資
    など、さまざまな反社会的勢力が信用組合に接近していったことが確認されています。

反社に資金提供をしたという過去の事実が、「付け入るための格好の材料」となり、次々と新たな要求者を引き寄せる結果を招きました。

一度でも不当要求に応じてしまえば、その事実が資金源として利用可能な組織であることを周囲に示すこととなり、反社が次々と寄ってくるのです。

参考文献

特別調査委員会『調査報告書(公表版)』(2025年10月31日公表)

https://www.iwaki-shinkumi.shinkumi.net/pdf/20251031_3.pdf

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