黒字リストラの増加
黒字企業が企業組織を再構築するために実施するリストラを黒字リストラといいます。
近年、黒字リストラを行う企業が増加しています。東京商工リサーチの調査によると、2024年5月16日までに「早期・希望退職募集」が判明した上場企業のうち6割が黒字企業でした(27社中17社が黒字)。この傾向は2025年も続いており、2025年1月から5月15日までに黒字リストラを行う企業は6割を占めました(19社中12社が黒字)。
直近決算の最終損益が黒字で、2025年に早期退職・希望退職募集をした上場企業をまとめていきます。そのうえで黒字リストラを行う具体的な理由を考えます。
2025年に黒字リストラを発表した上場企業
2025年に希望退職を公表した上場企業の例は下記のとおりです。
企業名 | 募集人数 | 対象 |
---|---|---|
ウシオ電機 | 記載なし | 勤続3年かつ満56歳以上 |
協和キリン | 定めず | 40歳以上かつ勤続3年以上の社員・再雇用社員 |
パナソニックHD | 10,000人 | 営業部門・間接部門中心(子会社のパナソニックの場合、勤続5年以上の40歳から59歳の社員) |
日清紡HD | 400人 | 日本無線株式会社及びその日本国内の子会社の従業員 |
マブチモーター | 定めず | 年齢50歳以上59歳未満の本社及び関連会社出向中の、管理監督者を除く正社員 |
NIPPON EXPRESS HD | 300人 | 日本通運の管理職を含む55歳以上の事務系社員 |
グンゼ | 未定 | アパレルカンパニー在籍の2026年月20日時点、満40歳以上の社員 |
三菱電機 | 定めず | 満53歳以上かつ勤続3年以上が経過した当社正社員および定年後再雇用者 |
三菱ケミカルグループ | 定めず | 満50歳以上かつ勤続 3 年以上の管理職/一般社員/再雇用社員 |
全体的に年齢の高い従業員を早期退職の対象としている点に特徴があります。
また、ほとんどの企業で、早期退職の優遇措置として退職金の割り増しに加えて、再就職支援の実施をセットとしております。
早期退職プログラムの呼び名も「セカンドライフ支援制度」、「ネクストキャリア支援制度」、「ネクストステージ支援制度特別措置」、「ネクストステージ支援プログラム」など前向きでポジティブな印象を与える表現となっています。
黒字リストラを行う理由1:事業転換
黒字リストラが増えている理由の一つは企業の事業転換にあります。
例として、「自動車業界のEVシフト」や「デジタル化への対応」などがあげられ、旧来の業務に従事していた人員が余剰となるケースが出ています。
グンゼは業績が低迷しているアパレル事業の立て直しをはかるため、国内にある4つの工場の閉鎖を行い、工場の集約化を進めております。その一方で、素材・機能性・医療分野といった、競争優位性を持てる成長領域へのシフトを図っています。
黒字リストラを行う理由2:年齢構成の調整
理由の2つめは、人員構成の歪みを是正するためです。特に大企業では、高齢化が深刻な問題となっています。
例えば三菱電機は「人員構成上の課題に対処し次世代への継承推進が必要と認識するに至りました」と説明しています。また、ウシオ電機は「現状の社員構成における世代の不均整は是正するべき点の一つです」などとIRのなかで述べ、世代交代の必要性を明言しています。
黒字リストラを行う理由3:収益性追求
理由の3つめは、収益性や効率性の追求です。
2023年3月31日に東京証券取引所は全上場企業に「資本コストや株価を意識した経営」を求めました。このなかでPBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業に是正を促したように、資本効率や利益率の向上を求めるような流れとなっています。
今回のケースではパナソニックHDや三菱ケミカルグループがこれにあたります。パナソニックHDは競合他社と比較して、収益性が低い点を問題点としていました。その要因に販売費及び一般管理費が高い点をあげて、10,000人規模のリストラに踏み込みました。
たしかに、パナソニックHDの収益性の低さ改善の手段としてリストラも一つの手なのかもしれません。ただし、同社ん売上高構成は家電製品の製造販売を担うくらし事業が最も多く、従業員数も多いです。家電製品はコモディティが進んでおり、そもそも収益性を高めにくい市場なので、コスト削減だけでは抜本的な解決にはならい可能性があります。
黒字リストラ時代で私達が取る一つの選択肢:従業員から株主へ
黒字リストラが常態化して困るのは従業員です。
日本企業はこれまで終身雇用制度を前提に経営されており、一つの会社に生涯勤めることが多かったと思います。
終身雇用であれば安定した収入が得られるため、昇給表を踏まえたライフプランを立てれば生活がなりたちました。退職後は、これまでの貯金や退職金と年金で生活費を賄うことができます。
しかし、黒字であっても企業が人員削減に踏み切る時代になったことで、この「安定の前提」が崩れつつあります。
では、こうした状況の中で、従業員はどう行動すべきなのでしょうか。
たくさんの対策が考えられますが、ここでは一つだけ書きます。それは株式投資を行うことです。
黒字リストラの動きは、従業員としては脅威ですが、株主としては歓迎すべきことでもあります。企業の収益性が高まり、無駄なコストが削減されれば、1株あたりの利益(EPS)は増加し、株価や配当も上がる可能性があります。
つまり、企業の合理化は、株主にとっては「リターンの源泉」なのです。
株主の立場に回ることができれば、企業の価値が上がることで利益を得ることができ、社会の変化を味方につけることができます。
今は個人でも簡単に投資ができる時代です。大金を持っている必要はありません。少額から始められる投資信託やETF(上場投資信託)を活用すれば企業の成長に投資できます。
現在はネット証券などで低コストのインデックス投資を行う土壌ができあがっております。さらに、投資した金融商品から得られる利益を非課税にできる新NISAの制度もあります。投資を行う環境が整備されているのです。
黒字リストラや終身雇用の崩壊は、働く私たちにとって決して歓迎すべきものではありません。しかし、資本主義の構造をよく見れば、そこには新たなチャンスも隠れています。
企業が合理化で利益を上げ、それを株主に還元するのであれば、私たちもその株主の一人になるという手段が考えられると思います。
コメント