イオン㈱のセグメントと非支配株主

事例

非支配株主は連結グループの業績に大きなインパクトを与えることがあります。イオン株式会社(以下イオングループ)をケースに、同社の収益性が低い理由をまとめます。

結論

  • イオングループの収益性が低い理由はGMSやSMセグメントの売上高に対する利益が小さいためです。
  • 持株割合が小さな子会社を多数抱えているため収益性が一層低くなります。
  • 持株割合が小さいと,子会社の純利益を連結グループの業績から取りこぼしてしまいます。
  • 総合金融セグメントやディベロッパーセグメントなどの収益性が高い事業もありますが、グループ全体の売上高が巨額であるため、利益率に及ぼす影響は小さいです。

イオングループの事業

イオン㈱は純粋持株会社です。純粋持株会社は事業活動は行わずに、グループ全体の戦略の策定(企業戦略の策定)と事業ポートフォリオの管理を行います。

イオングループは309社の連結子会社と25社の持分法適用関連会社により構成されています。

イオングループのセグメント別業績

2023年度のセグメント別業績を確認します。売上高とセグメント利益の単位は百万円です。

売上高利益利益率
GMS3,389,35025,3590.75%
SM2,782,17141,9111.51%
DS400,4288,4892.12%
ヘルス&ウェルネス1,235,11542,6003.45%
総合金融483,50251,23110.60%
ディベロッパー468,34247,34810.11%
サービス・専門店797,49117,2842.17%
国際508,74110,3722.03%

イオングループは8つのセグメントで事業を行っています。

収益性が高い事業は総合金融とディベロッパーです。

総合金融を行う子会社は、イオンファイナンシャルサービス(株)や(株)イオン銀行が該当します。クレジットカードや住宅ローンに関する事業を行います。

ディベロッパーを行う子会社は、イオンモール(株)やイオンタウン(株)が該当します。ディベロッパー事業は、ショッピングモールを建設し,モールに出店する企業からテナント料を受け取る事業を行います。

次に利益率が高いのは、ヘルス&ウェルネスです。子会社はウエルシアホールディングス(株)です。事業はドラックストアの運営です。

上記以外の5つのセグメントの利益率は0.7%から2%台であり、収益性が低いです。

GMSやSMは売上高が大きいため、グループ全体の利益率を押し下げています。なおGMSはショッピングセンターのイオンが子会社であり、SMはマックスバリュ東海(株)、ミニストップ(株)、㈱いなげや、㈱ダイエー、㈱マルエツ、まいばすけっと㈱などが子会社です。

子会社の持株割合と業績

イオングループ傘下の子会社(一部)の持株比率と、各社の最新年度の有価証券報告書に記載されている売上高、最終利益をまとめます。金額の単位は百万円です。

子会社持株割合売上高最終利益
イオン北海道㈱67.16%331,1606,193
イオン九州㈱78.46%484,7427,025
ユナイテッド・SM㈱53.77%690,4981,008
㈱いなげや51.04%250,594497
マックスバリュ東海㈱64.71%366,7428,313
ミニストップ㈱54.10%79,056△468
ウェルシアHD㈱50.59%1,217,33926,451

ウェルシアHD㈱に着目してください。同社株式の持株比率は50.59%です。そしてウェルシアHDの最終利益は26,451百万円です。

同社の最終利益のうち,イオングループに帰属する利益は26,451百万円×50.59%の13,381百万円です残りの最終利益はイオン以外のウェルシアHDの株式を保有する非支配株主に帰属します。

イオン北海道㈱、マックスバリュ東海㈱など最終利益の計上額が大きい子会社についても、イオングループが取り込める利益は、イオンが保有する持株割合を掛けた値です。

上記にあげた以外にも完全子会社となっていない企業は複数存在するため、イオングループではなく、非支配株主に帰属する利益は増加していきます。

イオングループにおける非支配株主の影響

イオン㈱の第99期(2023年3月~2024年2月)有価証券報告書を用いて業績を確認します。

まずは連結損益計算書です。

2023年度の売上収益合計が9,553,557百万円(9.5兆円)、営業利益が250,822百万円(0.25兆円)です。これらの数値は親会社と子会社が計上した売上高と営業利益が単純合算され、グループ内取引を消去して算定されます。

当期純利益は104,863百万円です。このうち、非支配株主持分に帰属する当期純利益は60,171百万円であり、最終利益(親会社株主に帰属する当期純利益)は44,692百万円です

当期純利益は親子会社株主よりも非支配株主持分に帰属する利益の方が大きいことがわかります。これは子会社の持株比率が低い影響です。

次に連結貸借対照表の純資産内訳をみます。

純資産合計は2,087,201百万円(約2.1兆円)です。

純資産のうち、親会社株主に帰属する項目である株主資本は913,399百万円非支配株主に帰属する項目である非支配株主持分は1,031,925百万円となっています。

子会社の当期純利益をとりこぼしているため、非支配株主持分が今後も拡大していきます。

まとめ

イオングループの収益性が低い背景には、GMSやSMなど低利益率セグメントの売上比率が高いことに加え、多数の子会社に対する持株比率の低さが影響しています。

持分比率の低さにより、子会社の利益の多くが非支配株主に帰属し、親会社株主に帰属する利益が限定されてしまっています。実際、連結ベースでは最終利益の過半が非支配株主に帰属してしまい、グループ全体の業績に対する親会社の実質的な取り分は相対的に小さくなるのです。

参考

有価証券報告書・四半期報告書 | IR資料室 | 株主・投資家の皆さま | イオン株式会社
イオンの有価証券報告書・四半期報告書を掲載しています。企業情報、事業情報、財政状況等など、イオンIRのほぼすべての情報を網羅している冊子です。過去10年分ご覧いただけます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました