川崎汽船株式会社(以下川崎汽船)の業績が著しく良くなった時期がありました。
その要因は関連会社の業績が伸びたことによって、関連会社の業績の一部を川崎汽船の連結損益計算書に取り込めたためです。
どのような会計処理を行ったのかをまとめます。
結論
- 関連会社の純利益は持ち株割合において親会社の連結損益計算書に持分法による投資損益として計上されます。
- 2017年7月7日に、川崎汽船、商船三井、日本郵船の3社で定期コンテナ船事業を統合しOcean Network Express(通称ONE社)を設立しました。
- ONE社の業績が好調であったため、川崎汽船は同社の利益を取り込むことができました。これが川崎汽船の業績が好調であった理由です。
川崎汽船のビジネス
川崎汽船は、主に「ドライバルク」、「エネルギー資源」及び「製品物流」の3つのセグメントで事業を行っています。
「ドライバルク」セグメントにはドライバルク事業、「エネルギー資源」セグメントには液化天然ガス輸送船事業、電力事業、油槽船事業及び海洋事業、そして「製品物流」セグメントには自動車船事業、物流事業、近海・内航事業及びコンテナ船事業が含まれています。
そのほか、船舶管理業、旅行代理店業及び不動産賃貸・管理業等が含まれています。
Ocean Network Express
オーシャンネットワークエクスプレスホールディングス株式会社が、川崎汽船の関連会社です。出資比率は川崎汽船が31%、商船三井が31%、そして日本郵船が38%です。
オーシャンネットワークエクスプレスホールディングス株式会社は純粋持株会社であり、同社の完全子会社として、OCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD.(ONE社)があります。
したがって、ONE社の利益はすべて純粋持株会社に帰属します。そして純粋持株会社の利益は出資比率に応じて親会社に帰属します。
ONE社は川崎汽船、商船三井、日本郵船の3社が、各社のコンテナ定期船事業部門を分離して、ONE社に事業統合することで誕生しました。
事業統合の背景にはコンテナ事業の激化があります。規模の経済を通じた競争力の強化を図るために3社のコンテナ定期船事業部門は統合しました。
持分法による投資損益とは
持分法による投資損益とは、関連会社の業績を、連結財務諸表に反映させるための項目です。
関連会社の株式の30%を2,000万円で取得したケースを考えます。親会社貸借対照表に固定資産の区分で関連会社株式が2,000万円計上されます。
関連会社が500万円の当期純利益を上げれば、親会社は持分の30%に相当する150万円を持分法による投資利益として、営業外収益に計上します。
また、関連会社が純利益を稼ぐことで、関連会社株式の価値が上がったと考えます。そこで、親会社連結貸借対照表上に関連会社株式の取得原価2,000万円に150万円を加えた2,150万円を計上します。
以上のように、関連会社の業績を、連結貸借対照表では関連会社の株式の価値を増加させるとともに、連結損益計算書では持分法による投資利益として計上することで、連結財務諸表に反映します。
関連会社を連結財務諸表に反映するための仕訳は1行で済むため、1行連結ともよばれます。
川崎汽船の業績
川崎汽船の営業利益、持分法による投資損益、経常利益の推移を確認します。金額の単位は百万円です。
営業利益 | 持分法による投資損益 | 経常利益 | |
---|---|---|---|
2017年度 | 7,219 | △4,601 | 1,962 |
2018年度 | △24,736 | △18,875 | △48,933 |
2019年度 | 6,840 | 8,011 | 7,407 |
2020年度 | △21,286 | 118,165 | 89,498 |
2021年度 | 17,663 | 640,992 | 657,504 |
2022年度 | 78,857 | 627,759 | 690,839 |
2023年度 | 84,763 | 51,710 | 65,828 |
ONE社が立ち上がって間もない2017年度や2018年度は持分法による投資損失が発生しています。関連会社が純損失を計上した場合は、持ち株割合に応じて純損失を負担します。
2018年度はONE社を含むコンテナ船事業で収益が大幅に悪化したため、損失が発生しております。
2019年度以降はONE社の業績が上向いております。
特に2021年度は、営業利益が17,663百万円(約176億円)に対して、持分法による投資利益が640,992百万円(約6,400億円)計上されており、著しい増益となっています。2021年度の売上高が約7,569億円なので、利益の大きさがより際立ちます。
まとめ:関連会社の役立ち
ONE社のように、複数の企業が同一の事業を統合することで、規模の経済を達成することができます。たとえば統合によって船舶の運航ルートが最適化され、重複した航路や積み荷の無駄を削減できます。これにより、燃料コストや運航管理コストの低減が図れます。
ほかにも船舶をONE社で一元管理することで、大型船の利用率が向上し、単位あたりの輸送コストが低下します。
統合のメリットを通じて関連会社(ONE社)が稼いだ利益を、持株割合(川崎汽船であれば31%)に応じて取り込むことができます。川崎汽船の2021年度、2022年度の業績が増益となっていた理由はここにあります。
加えて関連会社が損失を計上していた場合、自社が被る損失も持株割合に限定されます。
関連会社は利益であるリターンが持株割合に限定されますが、損失であるリスクも持株割合に限定できます。
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