苫小牧信用金庫の統治不全を読み解く:第三者委員会報告書の要点

不適切会計

苫小牧信用金庫(以下同金庫)は、業務執行態勢及び法令等遵守態勢に問題が認められたため、2025年5月9日に北海道財務局より業務改善命令を受けました

2025年5月26日に上記の問題が発生した要因と、その結果に基づいた再発防止の提言を受けるために第三者委員会を設置しました。

調査結果として、2025年12月5日に第三者委員会「調査報告書(公表版)」が公表されました。

調査報告書を中心に、要点をまとめます。

まとめ

  • 元理事のA氏による不当な影響力の行使:元理事が退任後も人事や業務に強い影響力を及ぼし、役員・職員が逆らえない組織風土が形成された。
  • ガバナンスの機能不全:理事・監事・内部監査がA氏の意向に従い、法令違反の恐れがある業務にも反対せず、適切なチェック機能が働かなかった。
  • 信用金庫の業務範囲違反(不動産賃貸):原則禁止の不動産関連業務を多数実施し、第三者委員会の判断でも例外規定に該当せず、明確に業務範囲外の事業を行っていた。
  • 子会社等の違法な隠蔽:不動産業を営む子会社の存在を監督官庁に長年報告せず、法令上の子会社判定や管理体制が全く機能していなかった。
  • 忠実義務・善管注意義務違反につながる不適切な取引:利用計画のない土地購入、価格妥当性を検討しない株式・会員権の購入など、金庫に不利益を与える複数の不適切行為が確認された。
  • 非上場株式の不当な簿価売却:苫小牧信用金庫が保有する1株当たり純資産約5,900円の株式をA氏の指示により1株500円でOBに売却するなど、正当な評価を欠く処理が行われていた。

業務執行体制の問題

A氏は、理事長・会長その他の役職を歴任したのちに、当金庫を辞任しました。

しかし、A氏は業務執行権が無いにも関わらず、意に沿わない言動をした役職員を叱責したり、本来有していないはずの人事上の影響力などを背景に、自身の意に沿う業務執行を続けてきました。

同金庫においては、基本的なコンプライアンス行動が徹底されない組織風土が醸成されてきました。

A氏の意向に従い続けた結果、例えば以下のような機能不全が生じました。

A氏の意向で行った行為
代表理事法令違反の恐れがある業務が行われていると知りつつも反対せず、対応しなかった
違法な業務遂行に賛成した例がみられた
理事・
理事会
・法令違反の恐れがある業務が行われていると知りつつも反対せず、対応しなかった
・当時の常勤理事がA氏の指示に従い業務を執行したり、事実関係の隠蔽に関与した
常勤監事・法令違反の恐れがある業務執行に対し、調査・検証や行為の差止請求をしなかった
内部監査A氏の関わる事案を監査対象から除外したり、表面的な検証に終始した

なお、第三者委員会報告書ではA氏と書かれておりますが、2025年5月9日に同金庫から公表された「当金庫に対する業務改善命令について」では、経営管理体制の問題として、「代表理事は、強い発言力を有する元非常勤理事からの指示や意向が法令違反に該当することを認識しながら、反対意見を表明しないなど適切な業務執行を行っていない」というように、元非常勤理事の影響を代表理事ら役員が受けていた旨の記述をしております。

信用金庫の業務範囲に関する規制違反

信用金庫の業務範囲について、不動産関連業務は、原則禁止されておりますが、同金庫は下記のとおり、複数の物件の賃貸を行っておりました。

第三者委員会が法律の要件に従って評価したところ、すべての事案が法に基づく他業禁止規定の例外に該当しないと結論づけました。つまり、信用金庫として、業務範囲外の事業を行っていたことになります。

事案不動産の賃貸
特定の債務者の支援及び債務圧縮のために2012年に購入。駐車場として賃貸
大半が駐車場として賃貸継続
特定の債務者の支援及び債務圧縮のために2015年に購入。駐車場として賃貸
子会社(甲社)と一体となって賃貸アパートを経営
支店の余剰スペースを2015年より賃貸用店舗敷地として賃貸
社宅老朽化に伴い、子会社(甲社)が賃貸アパートを建設し、甲社に敷地を賃貸
特定の債務者の支援及び債務圧縮のために2019年に購入。賃貸用ビルの敷地として賃貸
2019年に購入。事務所用地として賃貸

また、同金庫職員は融資取引獲得を目的とした不動産の媒介行為を行っておりました。

業務範囲に関する規制違反に該当する子会社の隠蔽

信用金庫法等で定める子会社等の業務範囲は、信用金庫法において定められており、不動産関連業務は原則禁止されております。

しかし、同金庫の子会社等は不動産関連業務を営んでおりました。さらに、子会社等が存在していた事実を、一部の理事は1998年頃から監督官庁に対して隠蔽しており、また、その後の理事及び監事についても、適法性に係る検証を怠っておりました。

同金庫は、子会社等への該当性を把握、確認、検証する体制を整えていなかったため、同金庫(子会社等を含む)や同金庫役員が出資する法人について、子会社等は無いものとして業務をしておりました。

会社議決権の状態
株式総数21株のうち、同金庫が2株、同金庫と緊密な者が16株保有(比率:85.7%)。子法人等に該当。
株式総数70株のすべてを甲株式会社が保有、増資した株も同金庫および同金庫役員がすべて保有。子法人等に該当。
株式総数70,000株のうち、同金庫が7,000株、同金庫理事が6,000株、同金庫と緊密な者が保有する株と合わせて議決権割合が22.37%に達し、関連法人等に該当。2023年にすべて売却。
同金庫の役員が技研釣権の50%超を保有。関連法人等に該当。

忠実義務違反ないし善管注意義務違反

A氏から指示を受けた一部の理事が、不適切な業務執行を行い、当金庫に不利益を与える不祥事件等が複数確認されました。

事業用としての利用計画がない中、価格の妥当性を検討せずに購入した土地建物

①相場より高値で土地を購入

時価1,390万円(2024年12月1日評価)の土地を2015年に3,200万円でB氏から購入しました。

実質的な購入理由はB氏の支援及び債務圧縮を図ることです。

この土地はB氏が駐車場用地として賃貸しており、同金庫は土地を購入した後も、駐車場用地として賃貸を続けております。

②相場より高値で土地を購入

時価2,383万円(2024年11月12日評価)の土地を2017年に7,000万円で購入しました。

購入時の稟議書に記載された購入理由について、同金庫がこの土地を利用して具体的にどのような事業を実施していくのかは検討されておりませんでした。

③相場より高値で土地建物を購入

時価8,360万円の土地と110万円の建物(2024年12月1日評価)を2022年に土地9,309万円、建物890万円で購入しました。

購入時の稟議書に記載された購入理由について、同金庫がこの土地を利用して具体的にどのような事業を実施していくのかは検討されておりませんでした。

①~③の第三者委員会の評価は類似していため、以下③についてのみ、第三者委員会の評価を記載します。

取得稟議書を承認した理事は、事業用としての具体的な利用計画がない中、価格の妥当性や事業用としての必要性を十分に検討しないまま、購入を決定しており、忠実義務ないし善管注意義務に違反しているというべきである。また、常勤監事は、このような理事の判断に対し、何ら意見を表明している形跡は無く、善管注意義務に違反しているというべきである。

第三者委員会「調査報告書(公表版)」p29

価格や目的を検討せずに株式を購入、ゴルフ場会員権を購入

同金庫は、己株式会社(以下「己」)の株式2000株(額面100万円)を所有していましたが、己が2008度決算において債務超過となったため、2009年3月、備忘価格1円を残して減損処理をしました。 己は、2021年度決算においても約1億1526万円の繰越欠損を抱えていました。

しかし、同金庫は、2022年、実質的にA氏の指示を受けて、己の株式を追加で2000株を額面金額100万円(合計20億円)にて購入しました。

また、A氏の指示のもと1口の相場が1~10万円の己株式会社のゴルフ会員権2口を合計40万円で購入しました。

以下が当該行為に対する第三者委員会の評価です。

稟議書を承認した理事は、購入目的や価格の妥当性を十分に検討しないまま、購入を決定しており、忠実義務ないし善管注意義務に違反しているというべきである。また、常勤監事は、このような理事の判断に対し、何ら意見を表明している形跡は無く、善管注意義務に違反しているというべきである。

第三者委員会「調査報告書(公表版)」p30

金庫が所有していた非上場会社株式を妥当な評価をせずに簿価で売却

同金庫が保有していた、非上場会社である丁の株式7000株を、2023年に、金庫のOBに対し、売却価格の算定根拠なしに一株500円で売却しました。

直近の同社の1株当たり純資産額(BPS)は約5900円でした(BPSと売却額の差額は3780万円)。

売却することは、購入者側からの要望によるものではなく、A氏の指示によるものです。

稟議書を承認した理事は、価格の妥当性を十分に検討しないまま、売却を決定しており、忠実義務ないし善管注意義務に違反しているというべきである。また、常勤監事は、このような理事の判断に対し、何ら意見を表明している形跡は無く、善管注意義務に違反しているというべきである。

第三者委員会「調査報告書(公表版)」p31

庚ゴルフ場の会員権購入

同金庫(行為者はE常務理事)は、2010年にA氏から多く見積もっても時価60万円相当の庚ゴルフ場の会員権を、240万円にて購入しました。

本行為は、役員との取引であって理事会付議案件であり、この金額では問題であるということで反対の声もありましたが、E常務理事が独断で買取りを決めました。

同金庫は、購入後の同会員権を簿価を60万円として資産計上し、残180万円について交際費として経費処理しました。

総括

第三者委員会は以下の2点認定しております。

長期間にわたり数多くの違法行為、忠実義務に反する経営を継続してきたと言わざるを得ない。

かかる不適切な経営が長期間にわたって改善されることなく継続してきたことの大きな要因としては、理事長であったA氏が、理事長職を離れた後も、金庫において隠然とした強い影響力を保持し、経営における適法、適切な意思決定を阻害し、A氏個人の意思が優先される企業風土、経営姿勢が強固に構築されるに至ったこと、更にはA氏の判断、意思それ自体が違法な経営へと導いてきたことは否定できない

参考文献

第三者委員会「調査報告書(公表版)」

https://www.shinkin.co.jp/tomashin/pdf/topic/20251205_jyuryou.pdf

当金庫に対する業務改善命令について

https://www.shinkin.co.jp/tomashin/pdf/topic/20250509_kouhyou.pdf

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