コメの価格が高騰する中で、テレビのニュースで業績の好調さを取り上げられた木徳神糧株式会社。同社の過去の業績と未来の業績を確認します。
結論
- 過去10年の売上高は概ね安定しているが、大きな成長は見られません。当期純利益率も1%を下回ることがほとんどです。
- 2025年の業績予想では、過去最高の売上・利益・利益率を見込んでいます。
- 利益剰余金の蓄積から、長期的に安定して黒字経営を続けていることがわかります。
- 上場企業としての木徳神糧には、株主や取引所から資本効率の向上が求められています。
- 一方で、同社の主力商品であるコメは生活必需品であり、価格高騰が消費者に与える影響も大きいです。
- 利益の追求と社会的責任(価格の安定)のバランスが今後の課題とされます。
木徳神糧のビジネス
同社の事業は、精米の製造販売・玄米の販売を行う米穀事業、飼料の販売を行う飼料事業、鶏卵の販売を行う鶏卵事業、米粉・加工食品・その他製造販売を行う食品事業で構成されます。
従業員379名(2024年12月)のうち、米穀事業が305名と、約8割を占めております。
また、同年の連結損益計算書の売上高118,998百万円のうち、米穀事業が101,761百万円と85%を占めており、事業の大部分は米穀事業になります。
したがって、今後は全社の業績に最も影響を及ぼす事業が米穀事業とみなして、特にセグメント情報は示しません。
木徳神糧の過去の業績
木徳神糧の2019年12月期(第72期)及び2024年12月期(第77期)の有価証券報告書に記載される【主要な経営指標等の推移】を用いて、計10期の業績を確認します。
項目は、売上高、親会社株主に帰属する当期純利益(最終利益)、当期純利益率です。会計期間は1月1日から12月31日であり、金額の単位は百万円です。
決算期 | 売上高 | 最終利益 | 利益率 |
---|---|---|---|
2015年 | 100,724 | 988 | 0.98% |
2016年 | 102,797 | 918 | 0.89% |
2017年 | 105,411 | 875 | 0.83% |
2018年 | 114,345 | 293 | 0.25% |
2019年 | 117,612 | 676 | 0.57% |
2020年 | 107,596 | 62 | 0.05% |
2021年 | 107,812 | 505 | 0.47% |
2022年 | 104,704 | 1,038 | 0.99% |
2023年 | 114,835 | 1,478 | 1.28% |
2024年 | 118,998 | 1,723 | 1.44% |
売上高は約1,000億円から約1,190億円の推移であり、安定している状態ですが、成長は緩やかであることがわかります。なお2019年に1,170億円を計上してから2023年まで減少傾向です。
最終利益も10億円未満の年度が多くを占めます。2022年以降は10億円超の最終利益を獲得しております。
利益率は1%未満の年度が8年連続で続いております。2023年12月期以降で1%台になりました。
毎年黒字の決算でありますが、同社の業績は上場企業の中では低位であることがわかります。
木徳神糧の将来の業績予想
決算短信を用いて、2025年12月期の業績予想を確認します。金額の単位は百万円です。
決算期 | 売上高 | 最終利益 | 利益率 |
---|---|---|---|
2025年 | 165,000 | 2,800 | 1.69% |
売上高は前年比で460億円増加(37.8%増)、最終利益は10億円増加(前年比62.4%増)となっております。過去10年間で比較すると最高の業績を予想しております。
利益率は1.69%で、過去10年間の利益率と比較すると、こちらも最高の比率となります。
同社の利益剰余金からみる経営方針
利益剰余金は連結貸借対照表の純資産の部、株主資本で計上されます。
利益剰余金は過去の利益の蓄積を示します。最終利益(親会社株主に帰属する当期純利益)が利益剰余金に加算されます。また、株主への配当の財源になります。
同社の2024年12月31日の利益剰余金は13,132百万円です。同社の過去10年の最終利益の平均は約855百万円(8.55億円)なので、配当を一切しない場合は15年間分の最終利益に相当します。
実際には配当を毎期行っているので、15年以上の最終利益を蓄積していることになります。
2024年の有価証券報告書は第77期なので、70年以上事業を続けております。同社の沿革は1950年の株式会社徳兵衛商店にあります。
同社の利益剰余金からは、薄利ですが毎期最終利益を獲得してきており、少しづつ成長を続けてきた企業であることが示唆されます。
上場企業の使命と東京証券取引所の要求
上場企業は社会の公器です。
上場すると、会社を取り巻く関係者が格段に増加します。会社は株主、顧客、従業員、地域社会など様々な関係者に対して影響を及ぼします。
すべての利害関係者を考慮しながら、企業価値を増加させていくことが上場企業の使命です。
一方、近年は資本効率の向上が求められるようになりました。会社の法的な所有者は株主なので、株主の利益を高める観点から資本効率は重要です。
日本の資本市場を魅力的なものにできれば、上場企業の資金調達を円滑に行うことができ、国内の経済にもプラスに働きます。
このため、多くの国内上場企業の株式を扱う東京証券取引所は、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を2023年3月31日に公表しました。そこには「資本コスト・資本収益性を十分に意識した経営資源の配分が重要」であったり、ROE8%未満を問題視する記述などがあります。
ROEは利益率を増加させると向上できます。資本市場からは利益率を高めることを求めております。
木徳神糧が上場企業である以上、利益の獲得を目指すことは当然の責務といえますが、扱う商材が国民の主食である以上、その対応には慎重さと社会的責任が求められます。
商材が日本人の主食であり、食料自給率も高いコメであるため、今回の米の価格高騰によって注目を浴びました。
上場企業としての利益の追求と、生活必需品の価格安定という社会的責任の両立は、非常に難しい課題です。今後、多くの上場企業がどのような姿勢で臨むかが注目されるでしょう。本記事が、そうした問題に目を向けるきっかけになれば幸いです。
参考
https://www.jpx.co.jp/news/1020/cg27su000000427f-att/cg27su00000042a2.pdf
ニュースで取り上げられた木徳神糧

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