前払金ビジネスの危険性:ニコハウス・レーヴボワミシェル・企広の倒産事例に見る共通リスク

事例

前払金とは

前払金とは、商品やサービスを受け取る前に代金の一部または全額を支払うことをいいます。

実際に商品の引受やサービスの提供を受ける際に、顧客は商品代金の総額から、すでに支払った前払金を差し引いた差額分だけを支払えばよいことになります。

したがって顧客にとっての前払金は、将来の商品やサービスを受け取る権利を表します。

前払金を受け取った側

前払金を受け取った企業は商品やサービスを提供する前に現金が入ります。この現金は将来において商品やサービスを提供しなければならないという義務に対応します。これを前受金といいます。

前受金が伴うビジネスは様々な業種で行われています。例えば建設業であれば、建設に伴って材料の調達や外注費の支払いなどが発生するので、これらの支払いに前払金(自社にとっては前受金)を充てることになります。

建設に資材の調達に必要なキャッシュが手元に潤沢にある企業や、信用力が高くて金融機関からの資金調達が容易な会社であれば、顧客からの事前入金を少なく設定しても問題ありません。

前払金ビジネスが倒産に至るパターン

手を付けてはいけないお金を使ってしまい、資金繰りに窮することで倒産に至ります。

企業は日々入金と出金を繰り返しながら事業を行います。例えば入金は商品の販売に伴い顧客から現金を受け取る、銀行から借金をする、株式を発行して資金を調達するなどがあります。

出金が伴う活動は、商品の仕入れ代金を支払う、従業員に給料を支払う、店舗の家賃を支払う、広告費を支払う、税金を支払うなどです。

前払金は商品・サービスを販売する(顧客に便益を提供する)前に入金されます。このお金は顧客に便益を与えるために商品を仕入れたり、従業員に給料を払ったりするために使わなければなりません。しかし、資金繰りが悪くなると他の目的で前払金を使う誘惑がでてきます。

事前にお金を受け取った顧客からのお金を、他の顧客へ便益を提供するためや支払が迫っている項目のために使ってしまうと、新たな顧客から前払金を受け取らないと資金が回らなくなります

常に新たな顧客が前払金として払い込んだ資金を使ってビジネスを回すことが前提となるので、新規顧客が獲得できなくなると既に資金を支払っている顧客に便益を提供できなくなります

前払金ビジネスの倒産例:株式会社ニコハウス

新潟県新潟市江南区の住宅建設業者である株式会社ニコハウスが2025年5月、破産申請を行いました。報道によると5月15日に事業を停止し、5月23日に自己破産を申請して破産手続きが始まりました。

帝国データバンクによりますと、およそ2億9000万円の負債を抱えていたということです。内訳負債の内訳は不明ですが、このような企業の負債には一般に、金融機関からの借入金、下請け業者への外注費の未払い、給与の未払い、そして住宅完成前の顧客から受け取った前受金が含まれます。

報道ではニコハウスと契約し、数百万円から数千万円の前払いを行っている顧客が取り上げられております。本来であれば契約者単位で資金管理を行います。例えば2,000万円で注文住宅の請負をしたのであれば、その資金の範囲内で工事を行い利益がでるようなビジネスでなければなりません。

資金繰りが苦しくなると、他の顧客からの前払金を用いて既存顧客への建設費に充てる対応を取らざるを得なくなる可能性があります。また、他の負債の返済に顧客からの前払金を使うことになります。新規に受注した案件に対応するキャッシュをこれらの支払いに充てると、新規顧客の建設が行えなくなってしまいます。

前払金ビジネスの倒産例:Reve Bois Michel(レーヴ・ボワ・ミシェル)

新潟県妙高市志の木造建築工事業者である株式会社Reve Bois Michel(レーヴ・ボワ・ミシェル)が2024年12月10日に、新潟地裁高田支部から破産手続きの開始決定を受けました。

帝国データバンクによりますと、2023年5月末時点でおよそ1億9600万円の負債を抱えており、今後変動する可能性があります。

上越タウンジャーナルによると、同社は下記の通り様々な要因で資金繰りに悪化していたようです。

資材価格高騰の影響から採算は取れていなかった。さらに、代表に対する未収入金、関係会社への立替え金など本業以外への資金流出が多く、資金管理面で課題があり、以前から取引先への支払いの遅れも聞かれ、厳しい資金繰りとなっていた。2024年5月期は減収となり、大幅な欠損となったことから、先行きの見通しが立たず、今回の措置となった。

(2025/10/16アクセス)

報道では同社と契約し1,800万円の契約金と着手金を支払った顧客が取り上げられております。契約金額の総額は住宅部分で3,000万円以上とのことですので、工事開始前に6割程度の資金を拠出しております。

同社から来月には材料価格が高騰するので、今月中に材料を頼まないと価格が上がるといわれ、契約をしました。しかし、顧客が調査をしたところ材料価格上昇の事実はなく、かつ建材屋に材料費の支払すら行われていなかったようです。

被害を受けた顧客の裁判所で同社の通帳を確認したところ、着手金の支払いはすべて同社の運転資金に充てられていたといいます。

資金繰りが厳しくなった結果、他の支払いに充てるために前受金を流用したことが示唆されます。

前払金ビジネスの倒産例:株式会社企広

兵庫県姫路市の木造住宅の建築・営業を事業とする株式会社企広2025年4月30日に、神戸地裁姫路支部から破産手続きの開始決定を受けました。

帝国データバンクによりますと、4億円の負債を抱えていたとのことです。比較的大口の倒産です。

同社は創業1973年、設立1976年の老舗でした。

報道では、2150万円のローンを組み「株式会社企広」と契約し、新築一戸建の工事を依頼した方が取材をされております。契約は2024年12月に行いました。2025年に3月には地鎮祭を行いましたが、その1か月後同社の担当者から株式会社企広は「4月28日に倒産致しました。4月28日より一切の事業が停止いたします」との知らせが届きました。

他にも、1,160万円で同社にリフォームの工事を依頼した別の方の取材もされております。2024年7月に工事の依頼をしております。破産の時点で、リフォーム工事は3割ほどしか進んでいませんでした。

同社と20年近く取引関係のある、工務店の社長によると破産の半年前から仕事の件数を増やしていたといいます。

(工務店社長)「(去年秋から)急にたくさん仕事があるなというイメージはあった。つぶれる前は結構駆け足で仕事を取っていたみたいなので、たぶん結構安い値段でお客さんと交渉して仕事を取っていた」

(2025年12月12日アクセス)

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前払金を支払った企業が破産した場合の弁済

倒産事例3社に前払金を支払った顧客は、弁済を受けることができるのでしょうか。弁済は破産財団に属する財産から行われますが、債権の優先順位から考えると、前払金の弁済を受けられる可能性は低く、もし弁済を受けられたとしても支払額の一部にとどまる可能性が高いです。

破産手続き時において、会社が所有する一切の財産は、破産財団に属することになります。破産財団から債権者への弁済が行われます

ただし、担保権を有する債権者は他の債権者に優先して当該担保に該当する特定の財産を売却することで、他の債権者よりも優先的に弁済を受ける権利があります。この権利は別除権とよばれます。

したがって、会社財産-担保財産(別除権)=破産財団に属する財産となります。

破産財団に属する財産を用いて、債権者に債権を弁済していくことになりますが、債権の弁済には優先順位があります。

優先順位が高い債権が財団債権であり、一部の公租公課(国や地方公共団体に支払う税金)や一部の労働債権(賃金・給与)です。また、破産管財人の報酬や破産財団の管理、換価、配当に関する費用が含まれます。

財団債権の全額が弁済できたうえで、なお破産財団に余剰がある場合に弁済を受けることができる債権が破産債権です。

したがって、会社財産-担保財産(別除権)-財団債権=破産債権となります。

破産債権の中にも4段階の弁済優先順位がありますが、前払金は2段階目の一般の破産債権に該当すると考えられます。

もともと資金繰りがうまくいっていない企業が破産手続きを行うので、前払金の弁済まで財産が残っている可能性は低いです。

前払いをする際の注意点

お金を払ったのに商品やサービスの提供を受けられないなんて絶対に避けたいことです。支払額の大きな住宅工事ではなおさらのことです。契約の判断材料はどこにあるでしょうか。以下、確認事項を一覧で示します。

  • 自己資本比率
  • 前払いのタイミング
  • 無理なキャンペーン
  • 急いで契約しない
  • 他社と比較して安すぎる

注意点1:自己資本比率

企業の業績や安全性を判断する材料の一つに財務諸表があります。財務諸表は企業の経営成績を示す損益計算書と資産や負債といった財政状態を示す貸借対照表から構成されます。

上場している会社であれば財務諸表の開示義務がありますので比較的容易に閲覧できます。上場していなくても自社のホームページや官報などで開示をしている場合があります。ほかにも帝国データバンクのデータベースから500円/社(税込)で閲覧できます。

財務諸表を取得出来たら貸借対照表を用いて、自己資本比率を確認します。自己資本比率は株主資本や利益剰余金など返済不要の資本(自己資本)を資産総額で割って計算します。自己資本比率が低い場合、資産の大部分を負債で調達していることを示しており、安全性が低い可能性が高いです。このような会社と契約をするかは慎重に判断すべきでしょう。

注意点2:前払いのタイミング

前払いのタイミングも注意点です。契約時に一括前払いなのか、契約の履行度合い(住宅建設であれば建設が進むごと)に応じて支払いをしていくのかなどです。

契約時一括の場合は、その企業が契約を履行する能力を有していると確信できる必要があります。契約の履行度合いの場合は、進捗状況を自身で確認できるので、その分危険性は低くなります。

注意点3:無理なキャンペーン

契約候補の企業が無理なキャンペーンを行っていないかも注意点です。キャンペーンを大幅割引や特典付きで行うのは、「今すぐにでも現金を確保したい」会社側の資金繰り上の事情が背景にあるかもしれません。

「大規模キャンペーン」や「期間限定の特典」を打ち出すことで、あたかも事業が順調であるかのように演出し、顧客から資金を集めようとします。

無理なキャンペーンは「資金繰りをつなぐための苦肉の策」であり、企業の健全性よりも目先のキャッシュ確保を優先した結果といえます。

注意点4:急いで契約しない

一度お金を払ってしまうと、返金してもらうのは大変です。資金繰りに窮している会社に対してはなおさら難しいです。

注意点3とも関わりますが、期間限定の契約でお得になるや、資源価格が高騰しているので早く調達しないと建設費が高くなるなどと会社から言われ、慌てて契約をするべきではありません。

注意点5:他社と比較して安すぎる

見積金額が他社と比べて極端に安い場合は、慎重な判断が必要です。適正なコストを下回る価格で契約を受注する企業は、材料費や人件費を十分に賄えない可能性があります。その不足分を補うために、新規顧客の前払金を流用して工事費に充てるビジネスモデルへ陥るリスクがあります。

また、安価な見積りは「契約を急がせるための誘導」であり、契約後に追加費用を請求するケースも多く見られます(注意点4との組み合わせ)。異常に安い見積りは、資金繰り悪化の兆候や、価格で無理に案件を獲得しようとする経営状態の表れである可能性があります。

少なくとも2~3社から見積りを取り、相場から大きく離れていないかを必ず確認しましょう。安さだけで契約判断をすると、前払金を失うリスクが高まります。

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