株式会社メルカリ(以下㈱メルカリ)は、多額の預り金が負債に計上されています。預り金を中心に展開される同社のビジネスを、連結貸借対照表に計上されている様々な勘定科目から確認します。
結論
- 出品者は、商品の販売により購入者から振り込まれた代金を引き出さずに保管することができます。これが預り金を構成します。また。自由にチャージ(入金)することもできます。
- 預り金に相当する現預金は、商品を販売した出品者がいつでも引き出し可能な状態にする必要があります。資産科目の差入保証金は、資金を保全するために、当局や金融機関に預け入れます。
- 預り金から差入保証金を差し引いても同社には多額のキャッシュが残ります。
- キャッシュを有効活用するために「メルペイスマート払い」や「メルカード」といった金融関連事業(Fintech)に参入しています。
- 預り金に加えて、債権の流動化による借入を行っており、多額のキャッシュを調達しています。
㈱メルカリの事業ドメイン
㈱メルカリは、国内(Japan Reagion)においてMarketplace事業、Fintech事業という2つのドメインで事業を行っています。
Marketplaceでは、フリマアプリ「メルカリ」の運営が中心となります。「メルカリ」は個人間取引(C to C)のためのマーケットプレイスであり、だれでも手軽に不用品を売買する場を提供しております。
Fintechでは、スマホ決済サービス「メルペイ」を運営しております。また、「メルカリ」独自の顧客・情報基盤を活用し、Creditサービスを中心とした金融関連事業を行っております。
Marketplaceのビジネス
Marketplaceのビジネスを見ていきます。なおFintech事業もかかわる部分は(Fintech)と記載しています。
Marketplace事業の「メルカリ」は出品者と購入者を仲介するビジネスです。取引の流れは①から⑤のとおりです。
①出品者は商品を出品します(出品とは撮影した商品と、説明をアプリに入力することをいいます)。
②購入者が、商品を購入すると、購入者はクレジットカード払い、コンビニ払い、ATM払い、キャリア決済など、様々な支払い方法を選択しメルペイ(Fintech)に商品代金を入金します。購入者の支払いが完了すると出品者に通知が届きます。
③出品者は商品を梱包して発送し、発送通知を選択します。
④購入者に商品が届き、購入者は商品の受取り評価を行います。
⑤出品者は取引完了の評価を行い、出品者と購入者間の取引が終了します。
取引の終了をもって、㈱メルカリは商品代金の10%に相当する取引手数料を売上高として認識します。
取引終了後、出品者はメルペイから手数料を控除した商品代金を引き出すこともできますが、引き出しをせずに預金することもできます(Fintech)。
また、商品を購入するタイミングでなくても、メルペイに入金することができます(Fintech)。
そのほかB to Cマーケットプレイスの「メルカリ Shop」や「メルカリ ハロ」などのサービスを提供しています。
Fintechのビジネス
次にFintechのビジネスを見ていきます。
Fintechはメルペイを運営しており、Marketplaceのビジネスを支援していました。
例えば、商品を購入する際はメルペイに入金をします。商品をすぐに購入する予定がなくてもメルペイにチャージするという形で入金ができます。さらに、出品者が商品を販売した場合は、代金をメルペイから引き出すことができます。
このようにFintechは一種の銀行のような仕事をしていることがわかります。顧客からの入金額から出金額の差額は現金預金として同社が保有します。
蓄積された現金預金を有効活用することがFintech事業の肝になります。
Fintechでは、「メルカリ」独自の顧客・情報基盤を活用し、Creditサービスを行っています。これは「メルカリ」の利用履歴に基づくAI与信を生かしたクレジットカードであり「メルペイスマート払い」や「メルカード」という名前でサービスを行っています。
「メルペイスマート払い」は翌月払いや・定額払いのサービスであり特に利用者が拡大しております。
「メルペイスマート払い」で定額払いサービスを利用すると、利用者は毎月決まった金額を返済することになります。
例えばクレジット利用額が10万円(元金)で、定額払いを1万円とすれば、毎月1万円を元金と手数料を含めて支払うことになります。リボルビング払いに近い構造であると思われます。
ほかにも、ビットコイン取引サービスを行っています。
㈱メルカリの連結貸借対照表
同社のビジネスを踏まえて、第12期(2023/07/01-2024/06/30)有価証券報告書を確認します。
まずは、「メルカリ」との関連が大きい項目を見ます。
2024年6月30日時点の総資産が501,773百万円(約5,010億円)、うち現金及び預金が191,998百万円(約1,910億円)、差入保証金が81,612百万円(約816億円)です。
多額のキャッシュを保有しています。調達源泉を見ると、預り金が201,121百万円(約2,010億円)、計上されております。
預り金は、「メルペイ」に預けられた現金を意味しております。出品者が商品の販売を行い、すぐに引き落としを行わない場合に計上されます。また、商品をすぐに購入しなくても「メルペイ」にお金をチャージする人がいます。
預り金は「メルカリ」での取引額が拡大すればするほど増加していきます。それにしたがって、資産に計上される現金及び預金も増加していきます。
なお、差入保証金は主に資金決済に関する法律に基づく発行保証金として法務局へ供託しているものです。
次に、メルペイが提供するCreditサービスに関連する項目です。
営業債権及びその他の債権が195,437百万円(約1,950億円)計上されています。
上記の債権は主に、「メルペイスマート払い(翌月払い・定額払い)」の利用者に伴って生じる資産です。
顧客がメルペイスマート払いを利用して商品の購入を行った場合、㈱メルペイが商品代金を顧客に代わってお店に支払います。
顧客の代わりに㈱メルペイが代金を支払うことで、顧客に対して債権を保有することになります。これが営業債権及びその他の債権となります。
代金の支払いが可能であるのは、同社が「メルカリ」のサービスで調達した多額のキャッシュを保有しているためです。
キャッシュの調達は預り金経由に加えて、債権流動化によって金融機関からの調達も行っております。流動負債の借入金が65,668百万円(約650億円)、非流動負債の社債及び借入金が124,263百万円(約1,240億円)あります。
債権流動化にはいろいろな方法がありますが、同社は債権に相当する金額の借入を行い、債権の回収が行えた時点で借入の返済を行っていると思われます。
債権を回収して現金化するにはタイムラグが生じるので、時間を埋めるために借入をしてキャッシュを調達しています。
最後に、同社の売上高、営業債権、預り金の推移を確認します。
売上高 | 営業債権 | 預り金 | |
---|---|---|---|
2022年 | 147,049 | 80,422 | 139,069 |
2023年 | 171,967 | 126,752 | 163,712 |
2024年 | 187,407 | 195,437 | 201,121 |
すべての項目が増加していることがわかります。預り金が増加しているのは「メルペイ」への入金が増えていることを意味します。売上高は顧客同士の商品取引代金に手数料率を乗じたものなので、厳密ではありませんが、預り金の増加が売上高増加の変数になります。
営業債権については、「メルペイスマート払い」から生じたものが主ですが、定額払いサービスの場合は、年率15.0%の手数料を得ることができます。こちらも債権の増加が売上高の変数になります。
以上のように、㈱メルカリは、Marketplace事業とFintech事業のシナジーを活かしながら、着実に成長を遂げてきました。とりわけ、メルペイを通じた金融サービスの拡大は、ユーザの利便性向上と収益基盤の多様化に寄与しています。
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