ニデック株式会社(証券コード:6594)の「第三者委員会の調査報告書」が2026年3月3日に公表されました。
調査報告書では、同社の創業者である永守重信氏が「会計不正を指示・主導した事実は発見されなかった」と結論付けております。
一方で、「(永守氏が)一部の会計不正を容認したとの評価は免れない」とし、強すぎる業績プレッシャーが会計不正の原因でした。そして、「今般発覚した会計不正について最も責めを負うべきなのは、永守氏であると言わざるを得ない」と評価しております。
第三者委員会調査報告書(概要版)をまとめます。
まとめ
- 2026年3月3日に公表された第三者委員会調査報告書は、創業者の永守重信が会計不正を「指示・主導した事実」は認められないとしつつも、一部不正を容認した責任は免れず、最も重い責任を負う立場にあると評価した。
- 不正会計の影響として、2025年度第1四半期末の連結純資産に約▲1,397億円の影響が見込まれ、車載事業を中心に約2,500億円規模の減損が生じる可能性がある。
- 発見された不正は、棚卸資産の評価損未計上、減損回避のための非現実的売上計画の使用、人件費の不適切な資産計上、引当金の戻入れや補助金の不正な収益計上など、多岐にわたる。
- 不正の根本要因は、営業利益目標の必達を前提とした過度な業績プレッシャーであり、トップダウン型の非現実的な目標設定が背景にあった。
- 業績目標達成のために減損等を先送りした結果、「負の遺産」と呼ばれる資産性に疑義のある資産が蓄積。2016年以降、資産健全化や構造改革で処理を試みたが、利益目標維持方針との両立が求められ、十分に解消されなかった。
- 原因分析では、永守氏への権限集中(絶対性)、経理・内部監査・監査等委員会の牽制機能不全、会計監査人や市場への不誠実な対応が指摘され、組織全体として不正を抑止できない体制にあったことが明らかにされた。
不正会計が業績へ及ぼす影響
第三者委員会が暫定的に算定したニデック株式会社(以下ニデック)の2025年度第1四半期末の連結財務諸表の純資産に与える影響額は約▲1,397億円です。
過年度決算の訂正に際して、暫定的ではありますが、減損の検討対象となるのれん及び固定資産の金額は、主に車載事業に関連して、約2,500億円規模になることが見込まれます。
ニデックの概要
ニデックは、永守重信氏(以下永守氏)が1973年に創業した株式会社です。
創業以来、急速に事業領域を拡大してきた原動力はM&Aにあります。一連のM&Aを経て、総合モータメーカーへと成長していきます。
ニデックグループは、ニデックに加え、合計354社(2025年9月末時点)に上る子会社及び関連会社で構成されます。
第三者委員会の調査で発見された不正会計の概要
第三者委員会(以下調査委員会)の調査は現在も継続中ですが、これまでの調査で、多数の会計不正が発見されております。一例として以下があります。
製品評価損の未計上:将来の使用見込み及び販売見込みが極めて低く、資産性がない原材料及び製品等に資産性が認められると偽って、棚卸資産の評価損を計上しなかった。
減損損失の計上回避:固定資産に関する減損テストの前提とされた売上計画の中に、実現性が低い案件を含めることで、減損を回避した。
固定資産の取得原価に不適切な支出を計上:人件費を固定資産に計上し、減価償却を通じて費用化することにより、費用計上時期を先延ばしにしていた。
引当金に係る不適切な処理
・ニデックの連結決算に際して、子会社が単体財務諸表で計上していた政府補助金の返還等に係る引当金を、連結財務諸表において不正に戻し入れていた。
・収益計上が許されない性質の補助金であるにもかかわらず、その性質を偽り収益計上した。
・不良債権の貸倒引当金を適切に計上しなかった。
不正の要因:業績達成への過度なプレッシャー
発見された会計不正は、いずれも業績目標、特に営業利益目標の達成に向けた強すぎるプレッシャーを背景に行われた不正でした。
永守氏の強力なリーダーシップの下、ニデックグループにおいては、長年にわたり「赤字は悪」であるとの考え方が徹底され(同社では営業利益率10%未満は赤字とみなされていた)、業績目標が必達のものとして捉えられておりました。
ニデックグループの業績目標は、長年にわたり、永守氏によるトップダウンで決定されておりました。
決定された目標は、投資家目線でどの程度の成長が求められているかといった観点から決められた目標で事業部門や子会社の実力を超えるものでした。その上で、永守氏は部下に対して業績目標を達成するよう強いプレッシャーをかけていました。
例えば、ニデック本社の執行役員が、連日会議を開いて、子会社の幹部に対し、営業利益目標を達成していないことを責め立て、徹夜をしてでも営業利益を捻出するよう指示するといった、無理難題ともいえる指示を繰り返す例がありました。また、永守氏からも、日常的に事業部門や子会社の幹部に対して直接プレッシャーが加えられていました。
強い業績プレッシャーがかけられる中、上述した不適切会計によって業績目標を達成しようとする事業部門や子会社も少なくありませんでした。
会計不正の背景には、ニデック本社のCFOや経理部門も、事実上、業績目標達成の責任を負わされており、業績目標が未達の場合には、永守氏から厳しく責め立てられていたという事情が存在します。
「負の遺産」と解消の取り組み(2016-2022年)
同社は社内調査でグループの様々な拠点に、資産性に疑義のある資産が滞留していることを発見しておりました。「資産性に疑義のある資産」とは、業績目標達成のために、資産の減損回避などが行われ、それが滞留することによって生じた資産です。
例えば棚卸資産の取得原価が売却額(正味売却可能価額)を下回っていれば、差額を商品評価損として費用処理します。固定資産であれば帳簿価額が回収可能価額を下回っていれば、差額を減損として費用処理します。
これらの資産は、ニデック社内においては、「負の遺産」などと呼ばれておりました。
2016年末頃からは、内部監査部門が主導して、「資産健全化プロジェクト」が開始されます。このプロジェクトは、ニデックグループ各社の申告に基づいて「負の遺産」に関する情報を集約し、減損等が必要な資産の処理を行う取組です。
ただし、「負の遺産」の処理を行うためには、処理によって発生する損失(例えば商品評価損や固定資産の減損)を収益でカバーして、業績目標を達成する必要がありました。そのため、「負の遺産」の処理は想定どおりには進まず、また、処理を進める傍ら、新たな「負の遺産」が発生する状況にありました。内部監査部門は、2022年度中に資産健全化プロジェクトの取組を終了しています。
「負の遺産」解消の取り組み(2022-)
2022年度第4四半期には、ニデック本社のCFOが主導して、「構造改革」の名の下、「負の遺産」の処理が行われます。
その結果、合計で1,600億円余りの「負の遺産」の申告がありました(「負の遺産」で生じた費用は事業部や子会社の業績には含まないとしたことで申告を促しました)。
CFOは、構造改革実施の了承を永守氏から得た際、2022年度通期の営業利益は1,000億円を下回らないようにするとの方針を伝え、その了承を得ていました。また、永守氏からは、2023年度にはV字回復をするよう指示がなされていました。そのため、CFOは、「負の遺産」のうち、処理の必要性が高い案件及びV字回復に資する案件を優先的に処理することとし、その余の案件については、2023年度以降、各事業部門及び子会社において、「計画的処理」を行うこととしました。その結果、2022年度第4四半期には、合計約566億円の「負の遺産」が処理されます。
営業利益は1,000億円を下回らないという方針があったため、「負の遺産」の多くは構造改革の対象とはなりませんでした。
「負の遺産」解消の取り組み(2023-)
「計画的処理」をすることとなった「負の遺産」については、その処理に要する費用が事業部門や子会社の業績に織り込まれることとなったため、処理は計画的に進みませんでした。
2023年度第4四半期には、構造改革費用として598億円の損失計上が行われました。
2024年度第4四半期には、「負の遺産」の処理に要する費用を事業部門や子会社の業績評価には織り込まない形での構造改革が計画され、当時の代表取締役社長がその必要性を永守氏に繰り返し説明しましたが、永守氏は、営業利益目標が必達のものであるとして、それを却下します。
その結果、2024年度第4四半期時点で処理すべき「負の遺産」が手つかずの事態が生じました。
2018年度下期に発覚した会計不正事案への対応
2018年度下期には、ニデック本社の経営幹部が米国拠点のCFOらに対して不正な会計処理を指示している疑いが生じます。外部調査の結果、複数の会計不正が発見されます。また、当該調査の過程で実施されたフォレンジック調査の結果、米国拠点にとどまらず、ニデックグループの様々な拠点で同様の会計不正が行われていることを示唆するメール及び資料が多数発見されます。
上記フォレンジック調査の結果発見されたメール等について事実確認を行った結果、7件について不適切な会計処理であるとされ、その影響額は、合計10億6,600万円と算定されます。
これらの不適切な会計処理に関しては、いずれも2018年度末までに是正措置が実施されます。
2019年度以降に発覚した会計不正事案への対応
その後も、ニデックグループにおいては、会計不正が相次いで発覚し、その都度、内部監査部門が特別調査を実施しています。内部監査部門は、これらの会計不正が行われた原因が、ニデック本社からの強すぎる業績プレッシャーにあると考えますが、高い業績目標を掲げ、その達成を強く求めるという永守氏の経営スタイルに切り込むことはあえて回避しました。
例えば、内部監査部門によるヒアリングにおいて、国内の子会社の幹部が、不正に及んだ原因として、ニデック本社の執行役員からの苛烈な業績プレッシャーの存在を訴えているにもかかわらず、内部監査部門が、ヒアリング議事録から当該部分を削除し、調査報告書においても、ニデック本社の執行役員による業績プレッシャーの存在には言及をしないという例がありました。
会計不正事案への対応
ニデックグループにおいては、毎年度、複数の会計不正事案が発覚しておりましたが、決算スケジュールが延期されることはありませんでした。内部監査部門を所管していた元執行役員は、「永守氏は、どこよりも早く決算発表をすることを信条としていた。決算スケジュールが遅延することは、ニデックにおいてはあり得ないことであり、永守氏の逆鱗に触れることは明らかであった…」などと述べております。
原因分析
調査報告書では不正会計が行われた原因に、過度な業績プレッシャー、永守氏の絶対性、牽制機能の不全、会計監査人・投資家・市場に対する不誠実さをあげております。
過度な業績プレッシャーの存在は、そもそも非現実的な目標設定がなされ、その達成に向けて極めて強いプレッシャーが加えられることにより生まれます。
プレッシャーは永守氏を起点とするものであり、それがニデックの経営幹部を通じて、事業部門や子会社の幹部に対する強いプレッシャーとなり、会計不正を生み出すに至ります。
永守氏の絶対性は、ニデックは、「永守氏の会社」であり、あらゆる権限が永守氏に集中していました。
牽制機能は、経理部門・内部監査部門・監査等委員会など、いずれも不十分な点がありました。調査委員会の調査で発見された会計不正の相当数には、事業部門や子会社の経理部門が関与していた。また、ニデック本社の経理部門が関与した会計不正も発見されましたた。経理部門が自ら会計不正に関与したことの背景には、CFOや経理部門が業績達成の責任を負わされているという、理不尽とも言える状況が存在しています。
内部監査部門は、ニデックグループにおいて会計不正が頻発する根本原因が、永守氏を起点とするニデック本社からの業績プレッシャーの存在にあると認識していたが、あえてその問題に切り込むことを回避していました。
最後に会計監査人等に対する不誠実さですが、ニデックの役職員が会計監査人に不正確な情報、ミスリーディングな情報を与え、都合の良い意見を引き出そうとする様子が至るところで観察されたとしております。
参考・引用
ニデック:第三者委員会の調査報告書の公表及び当社の対応に関するお知らせ

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