サッポロHD㈱の収益構造:ビール会社の稼ぎ頭は不動産

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サッポロホールディングス株式会社(以下サッポロHD)は、サッポロビールやエビスビールを製造・販売するサッポロビール株式会社や、清涼飲料水や食料品を扱うのポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社を主とした企業グループなどを傘下に持つ純粋持株会社です。

同社は酒類メーカーの印象が強いと思いますが利益の柱は不動産です。

サッポロHDの歴史を確認したのちに、セグメント情報を見ていきます。そのうえで同社が今後どのような取り組みを行うのかを検討します。

結論

  • (旧)サッポロビール株式会社は現在の恵比寿ガーデンプレイスの地に工場を保有していました。恵比寿地区の再開発計画にともない1986年に恵比寿工場を閉鎖しました。
  • 1994年10月に、恵比寿ガーデンプレイスが開業し、同社の不動産事業が誕生しました。
  • サッポロHDのセグメントのうち利益が最大なのが不動産事業です(2024年度7,343百万円)。利益率が最も高いのも不動産事業です(同年度29.85%)。
  • サッポロHDの株主(機関投資家)からは不動産事業の一部を売却して、酒類事業に注力すべきであると促されています

サッポロHDの歴史

同社は1876年、北海道・札幌にて「開拓使麦酒醸造所」として創業します。同年12月、札幌麦酒会社を設立しました(サッポロビールのルーツ)。

1887年に東京・銀座にて日本麦酒醸造会社を設立します(エビスビールのルーツ)。1889年に現在の恵比寿ガーデンプレイスの地に日本麦酒醸造会社の工場を竣工します。

1906年、札幌麦酒(株)・日本麦酒(株)・大阪麦酒(株)の3社合同により、大日本麦酒株式会社を設立します。

1949年、過度経済力集中排除法により、大日本麦酒株式会社は、日本麦酒株式会社と朝日麦酒株式会社(現在のアサヒグループホールディングス株式会社)に分割されます。

日本麦酒株式会社は1964年に(旧)「サッポロビール株式会社」に社名変更します。サッポロという企業名がついているのは、札幌麦酒株式会社の名残であると思われますが、恵比寿に工場を保有していたのは日本麦酒株式会社です。

日本麦酒株式会社が1889年に竣工した工場(恵比寿工場)は、1986年に閉鎖されます。これは、恵比寿地区の再開発計画に伴うものであり、工場は千葉県船橋市へ移転されました(千葉工場)。

1988年に星和不動産管理株式会社を設立(1998年に恵比寿ガーデンプレイス株式会社に商号変更、2012年にサッポロ不動産開発株式会社に商号変更)します。1991年には、恵比寿工場跡地の名称を「恵比寿ガーデンプレイス」に決定し、建設工事が始まります。

2003年に純粋持株会社へ移行し、(旧)「サッポロビール式会社」は「サッポロホールディングス株式会社」に社名変更します。そして、新たにサッポロビール株式会社を設立しました。

サッポロホールディングス株式会社は純粋持株会社なので、ビール事業に関する資産・負債を新たなサッポロビール株式会社に譲渡したと考えらます。また、不動産事業に関する資産・負債を現在のサッポロ不動産開発株式会社(当時の商号は恵比寿ガーデンプレイス株式会社)に譲渡しました

以上がサッポロHDの沿革です。セグメント情報の観点からまとめると、日本麦酒株式会社(その後合併と分割を経て、(旧)サッポロビール株式会社となる)が1889年から1986年という永きにわたり操業させていた工場の跡地が恵比寿ガーデンプレイスです。恵比寿ガーデンプレイスに関する事業は、サッポロHDの完全子会社であるサッポロ不動産開発株式会社が引き継いでいます

酒類事業は、サッポロHDの完全子会社である2003年設立の(新)サッポロビール株式会社が引き継いでいます。

詳しく取り上げていませんが食料飲料事業は、完全子会社であるポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社などが行っています。

セグメント別業績

同社の2024年有価証券報告書を用いて、最新期のセグメント業績を確認します。金額の単位は百万円です。

セグメント売上高利益従業員数
酒類事業400,1874,7193,749人
食料飲料事業118,8455,2102,401人
不動産事業24,6027,343134人

売上高、従業員ともに最大のセグメントが酒類事業です。売上高が約4,000億円に対して利益が47億円です。利益率は1.18%であり、収益性は低いです

不動産事業は、売上高、従業員ともに小さなセグメントですが、利益を73億円計上しており、酒類事業よりも大きいです。利益率は29.85%であり、収益性も高いです

サッポロHDの業績

サッポロHD全体の最新期の連結財務諸表をみます

売上高530,783百万円(約5,300億円)、営業利益10,416百万円(約104億円)、当期純利益7,771百万円(約78億円)です。

連結財政状態計算書(国際会計基準の連結貸借対照表の名称)の資産の総額は664,963百万円(約6,649億円)です。そのうち、投資不動産が209,176百万円(約2,091億円)であり、ビール製造で用いる工場や機械装置などの金額で構成される有形固定資産の157,799百万円(約1,578億円)を上回っています

不動産事業は、サッポロHD全体の業績に大きな貢献をしていることがわかります。サッポロHDは恵比寿工場工場跡地を再開発した恵比寿ガーデンプレイスが利益の柱となっています。

機関投資家からの要望

サッポロHDは機関投資家から収益性の低さを指摘されており、収益性向上と、成長のための戦略を模索しています。

以下日本経済新聞2025年4月21日「サッポロHD、買収下手の苦悩 不動産売却で巻き返し」を引用します。

「サッポロホールディングスの成長戦略が暗礁に乗り上げている。海外の買収先の収益は期待外れで減損損失の計上が相次いだ。大株主から経営改善を強く求められ、不動産の一部売却や酒類事業への集中投資を検討する。・・・サッポロHDの投資不動産は24年12月末時点で簿価が2091億円に対して時価(公正価値)は4029億円ある。・・・不動産事業は事業利益の35%(24年12月期)を稼ぐ「虎の子」だ。「海外ビールの買収はもともと出物が少ない」(市場関係者)という。不動産に代わる収益源に育つような「金の卵」となる酒類事業を手に入れるのは容易ではない。

現状は完全子会社であるサッポロ不動産開発株式会社が不動産を保有しています。サッポロ不動産開発株式会社の株式を一部売却して、売却資金をビール事業の成長のために投資するという可能性があります。

同じく日経新聞2025年4月14日「サッポロHD社長、不動産売却益『株主還元の原資にも』」からの引用をします。

「時松浩社長は14日、日本経済新聞のインタビューに応じ、不動産の売却などで得た資金について酒類への投資のほか、株主還元や負債の削減に充てる可能性があると明らかにした。同社は2024年に不動産事業会社に外部資本を受け入れることを決めており、詳細について年内に結論を出す。」

社長も不動産事業の売却可能性を示していることがわかります。

不動産事業一部売却による業績への影響

不動産事業の一部売却にはリスクもあります。

子会社株式を一部売却すると一括で多額のキャッシュを得ることができるますが、完全子会社ではなくなり、非支配株主が生じます。売却後は、不動産事業から生じるすべての利益を取り込めなくなってしまいます。また、成長のための原資を得たからといって、投資が成功するとは限りません

不動産事業は東京都内の一等地にあり、賃貸収入など安定した利益とキャッシュがもたらされます。不動産事業は完全子会社が運営するので、現状は、子会社の利益はすべてサッポロHDのものになります。

機関投資家からの提言を受け入れることも大切ですが、サッポロHDが何に売却資金を使うかも慎重に決定する必要があります。

参考

サッポロホールディングス 有価証券報告書|IRライブラリー 2024年12月期(第101期)

有価証券報告書|IRライブラリー|サッポロホールディングス
サッポロホールディングス株式会社のIR関連のページです。

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