2022年5月に、株式会社大塚家具は株式会社ヤマダデンキに吸収合併されました。この日をもって、法人としての株式会社大塚家具は消滅しました。
大塚家具が業績不振となった2016年度から吸収合併に至るまでの会計数値の推移を見ていきます。そして第三者割当増資の怖さをお話します。
結論
- 株式会社大塚家具(以下大塚家具)は、2016年度以降5期連続で最終赤字でした。
- 営業活動によるCFも5期連続で支出が上回る状態であり,手元資金が枯渇していきます。
- 手元資金を補うために、有価証券や不動産などの資産を売却していきます。
- 売却する資産も枯渇したため、2019年度に第三者割当増資を行い、ヤマダ電機株式会社(現ヤマダホールディングス株式会社)が出資を行いました。
- ヤマダデンキの大塚家具に対する議決権比率が過半数を超えたため、大塚家具の経営はヤマダデンキに支配されます。
- 吸収合併により,2022年5月に法人としての株式会社大塚家具は消滅しました。
大塚家具の業績の推移
大塚家具の業績は2016年度以降悪化しました。以下業績の推移を示します。金額の単位は百万円です。
年度 | 売上高 | 当期損失 |
---|---|---|
2016年度 | 46,307 | △4,567 |
2017年度 | 41,079 | △7,259 |
2018年度 | 37,388 | △3,240 |
2019年度※ | 34,855 | △7,718 |
2020年度 | 27,799 | △2,371 |
※2016年度から2018年度までは期首が1月、期末が12月ですが、2019年度以降期首を4月に変更しています。2019年度の会計期間は2019年1月1日から2020年3月31日の16か月間です。
売上高が減少し続けており、最終損失も2020年度までに縮小していますが,黒字には至っておりません。
次に営業活動によるCF(キャッシュ・フロー)と投資活動によるCFの推移と、期末時点の現金・現金同等物を記載します。金額の単位は百万円です。
年度 | 営業CF | 投資CF | 期末現金・現金同等物 |
---|---|---|---|
2016年度 | △5,770 | △812 | 3,853 |
2017年度 | △4,785 | 3,094 | 1,806 |
2018年度 | △2,608 | 3,104 | 2,501 |
2019年度 | △6,968 | 1,393 | 3,475 |
2020年度 | △1,108 | 571 | 2,195 |
営業活動によるCFは全期間で支出超過です。投資活動によるCFは2016年度以外は収入超過です。
投資活動によるCFがプラスなのはキャッシュを調達するために、保有している資産の売却をせざる負えないためです。
2015年度末において、現金預金を約109億円(以下億円での表示は約を記載しません)保有していました。2016年度の営業活動によるキャッシュの流出額が58億円です。本業の不振による資金流出が主な理由で、2016年度末の現金預金が38億円にまで急速に減少しています。
翌2017年度と2018年度は類似したキャッシュ・フローとなっています。
2期間とも営業活動によりキャッシュが48億円・26億円それぞれ流出しました。前年度の現金預金で営業キャッシュの流出分を補えないため、同社が保有する資産を売却しています。
2017年度は主に投資有価証券28億円を,2018年度は投資有価証券18億円と有形固定資産15億円を売却しました。資産を売却してキャッシュの調達を行った結果、2018年度もなんとか資金繰りに行き詰まらずに済みました。
ここで売却可能な資産の残高を貸借対照表で確認します。
2016年度の資産総額が376億円に対して、2018年度末には209億円まで減少しています。
資産のうち、2016年度の投資有価証券が55億円から2018年度が6億円にまで減少しました。土地や建物などの有形固定資産も37億円から2億円にまで減少しました。
つまり、営業キャッシュの流出を補填するために換金可能な資産を売却して資金を得ていましたが、2018年度末時点では売却可能な資産がほとんどなくなってしまっています。
2019年度が同社にとっての運命の分岐点です。すでに売却ができる資産はないです。期首の資産残高25億円に対して、当期の営業キャッシュの流出は70億円です。キャッシュが55億円ほど足りなくなってしまいました。
同社が2019年度に取った資金調達の策が新株を発行して資金を出資してもらうという増資でした。
2019年の3月と12月に新株の発行を行っています。2019年12月の増資は株式会社ヤマダ電機(現株式会社ヤマダホールディングス)が引き受けています。
ぞの牛の結果、2019年度の財務活動のキャッシュ・フローを見ると株式の発行による収入が70億円計上されています。増資によって資金を確保しました。
第三者割当増資の影響
増資前後の株主の構成を見ていきます。
2018年度末の大株主の状況を見ると、大株主の総株数5,634千株であり、発行済株式総数の29.77%を占めます。所有割合1位の株主は、株式会社ききょう企画の1,292千株(6.83%)です。ききょう企画は大塚家具創業家の「資産管理会社」です。
次点で株式会社ティーケーピーという貸会議室を営む企業の1,290千株(6.81%)です。大塚家具とは2017年に業務・資本提携契約を締結しています。
次に、2019年度末の大株主の状況を見ると、大株主の総株数は34,708千株であり、発行済株式総数の59.85%を占めます。所有割合1位の株主は、株式会社ヤマダ電機の30,000千株(51.73%)です。
増資をした結果、大塚家具の過半数の株式をヤマダ電機が保有することになりました。ヤマダ電機は大塚家具を支配した状態となり、同社は子会社となります。
取締役の構成を見ても、2020年7月にヤマダ電機の取締役社長である三嶋恒夫氏が大塚家具の代表取締役会長へと就任しています(ヤマダ電機と兼任)。
さらに2021年になると。ヤマダホールディングス株式会社(ヤマダ電機から社名変更)と大塚家具が株式交換を行い。2021年9月1日に大塚家具は完全子会社となりました。
翌2022年5月1日に同社はヤマダホールディングス株式会社の子会社である株式会社ヤマダデンキに吸収合併され、法人としての大塚家具は消滅します。
買収後の大塚家具
ヤマダホールディングスに買収された後も、大塚家具のブランドは残っています。以下大塚家具HPからの引用です。
合併後も「大塚家具(IDC OTSUKA)」のブランド名で営業を継続し、お客さまへのサービス向上に努めてまいります。
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大塚家具は一族企業の色合いが強い企業でした。大塚家具は大塚勝久氏が1代で築き上げた企業であり,上場も果たしました。2016年4月には勝久氏の娘である大塚久美子氏が代表取締役社長に就任しました。また、大株主も2018年度までは大塚家の資産管理会社です。
業績が悪化した要因は様々なことが重なった結果であると考えられますが、資金難に陥った結果の増資でした。増資は返済不要な原資がもたらされる一方で、企業の経営を握られることにもつながります。
会社は社会の公器という面で見れば、企業を成長に導いていける人が、経営者になるべきなのでしょう。一方、一族経営を重視するという面で見れば、育ててきた企業が自分のものではなくなったことになります。創業家がどれほどの思いをもって大塚家具のてん末を見届けていたのかのでしょうか。
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