株式会社サンリオは6期連続減収減益という苦難の経営を続けておりました(2016年3月期から2021年3月期決算)。
その後、3期連続の増収増益に転じ、V字回復を成し遂げました。
2025年5月には、同社の株式がMSCIオルカンの構成銘柄に組み込まれました。日本を代表する優良銘柄になった証です。
結論
- 創業者の辻信太郎氏が1960年に株式会社サンリオの前身を設立し、贈り物用品を中心に事業を始めました。その後「ハローキティ」等キャラクター商品を発売し、国内外で事業を拡大しました。
- 1987年にテーマパーク「サンリオピューロランド」の運営会社を設立し、1990年に開業しました。
- 2015年から2021年まで売上と利益が減少し、2021年には最終損失を計上しました。
- 2022年以降は業績が回復し、2024年には過去最高の売上・利益を達成しました。
- 2021年に中期経営計画を発表し、組織改革や事業再編、IPビジネスの強化を進めました。
- 2025年にMSCIジャパン・インデックスに採用され、企業価値が高く評価されました。
サンリオの沿革
株式会社サンリオの創業者は辻信太郎氏です。信太郎氏は桐生工業専門学校(現群馬大学)化学工業学科を卒業したのちに、山梨県庁に入庁しました。1960年8月に山梨県庁を退職しております。
1960年8月に辻氏は、愛と友情を育てる贈り物用品を主たる商品としたソーシャル・コミュニケーション・ビジネスの確立をめざし、株式会社山梨シルクセンター(現株式会社サンリオ)を東京都に設立しました。
1967年には、贈り物用の小型絵本「ギフトブック」シリーズを発刊し、出版物の企画及び販売業務を開始しました。
1969年にはグリーティングカード(誕生日、クリスマス、新年などの特別な日に、感謝や祝福の気持ちを伝えるために送るカード)の企画販売業務を開始しました。
1974年には、自社開発によるキャラクター(動物、人間等の図柄)を使用したソーシャル・コミュニケーション・ギフト商品を発売しました。同社HPでは、1974年にデビューしたキャラクターとして「ハローキティ」や「バニー&マッティ」などが紹介されております。
1976年には、自社開発デザイン・キャラクターを他社製品に使用させる、キャラクターの使用許諾提携業務を開始しました。同年、米国に子会社を設立し、米国内でソーシャル・コミュニケーション・ギフト商品の輸入販売を開始しました。
その後も海外展開を進めており、1983年には欧州、1897年にはブラジルに進出しております。その後も中国、香港、大韓民国、チリなどに展開しております。
1987年には、複合文化施設「サンリオピューロランド」(東京都多摩市)の運営会社、株式会社サンリオ・コミュニケーション・ワールドを設立しました。「サンリオピューロランド」は1990年にオープンしました。
サンリオの事業
同社はキャラクターの使用許諾業務、ギフト商品の企画・販売、テーマパーク事業等を営んでおります。
キャラクターの使用許諾業務の主な内容は、商品化権の許諾・管理です。
ギフト商品の企画・販売の主な内容は、ギフト商品、グリーディングカードおよび出版部の企画・販売や、ビデオソフトの製作・販売です。
テーマパーク事業の主な内容は、テーマパークの運営、ミュージカル等の企画・公演です。
サンリオの業績
サンリオの業績推移を同社の有価証券報告書を用いて確認します。金額の単位は百万円です。
売上高 | 最終損益 | |
---|---|---|
2015年 | 74,562 | 12,804 |
2016年 | 72,476 | 9,609 |
2017年 | 62,695 | 6,475 |
2018年 | 60,220 | 4,928 |
2019年 | 59,120 | 3,880 |
2020年 | 55,261 | 191 |
2021年 | 41,053 | △3,960 |
2022年 | 52,763 | 3,423 |
2023年 | 72,624 | 8,158 |
2024年 | 99,981 | 17,584 |
2015年3月期の売上高745億円と最終利益128億円を最後に、同社は6期連続で売上高と最終利益が減少しております。2021年3月期には、売上高が410億円で最終損失は39億円となりました。
2022年3月期から2024年3月期は3期連続で増収増益を達成しております。特に2024年3月期は売上高が999億円、最終利益175億円という過去9期で最高となっています。
業績低迷期の経営
減収および増収要因として、各年の有価証券報告書には下記の記載があります。
減収要因 | 増収要因 | |
---|---|---|
2016年 | 欧米両地域での商品ライセンス | 中国市場や日本国内市場 |
2017年 | 欧米及び南米での商品ライセンス | アジア市場のロイヤリティ |
2018年 | 欧米市場での商品ライセンス収入回復遅れ | 中国を中心としたアジア市場 |
2019年 | 欧米でのライセンス事業の回復の遅れ | 国内テーマパーク |
2020年 | 海外におけるロイヤリティ収入の減少 | 国内テーマパーク・物販 |
2021年 | コロナ禍による需要減 | EC部門の伸長 |
6期間の業績減少要因をみると、海外事業のライセンスやロイヤリティ収入の減少が響いたことが指摘されております。特に欧米と南米での業績が低下しています。
この理由として、欧州、米州での、プロダクトライセンス中心、『ハローキティ』中心のビジネスに偏ったことを問題視しています。
一方で、中国を中心としたアジア地域については、増収要因として分析されております。これらの地域は、収益の源泉としてプロダクトライセンス以外に、広告化権ビジネス、フランチャイズ化権ビジネス、興行権ビジネスが並立しており、キャラクターも『ハローキティ』をはじめ、他の主要キャラクターや、毎年送り出される新キャラクターが、競合・補完し合っている点で業績に寄与しております。また、現地マーケットを熟知したマネジメントが常駐していることも業績にプラスの影響を及ぼしていると分析しております。
業績回復期の経営
サンリオは2022年3月期から2024年3月期までの3ヶ年の中期経営計画『未来への創造と挑戦』を2021年5月25日に発表しました。同社はこの計画をベースに事業を展開してきました。
中期経営計画のポイントは、組織風土改革、構造改革、再成長の種まきの3点になります。
組織風土改革は、経営チームのガバナンス課題、個別最適や組織のサイロ化、頑張っても報われな組織風土等の課題に対し、積極的に対策を講じ、実行力ある組織への変革を進めることです。
具体的には取締役級の若返り、等級/評価/報酬の全制度の見直し、全社員が直接社長と対話する場を設置するなどがあります。
構造改革は大きく物販事業と海外事業に分けられております。
物販事業は、特に国内物販について、利益重視/収益改善を最優先に複数の施策を推進しております。例えば、商品点数の削減、開発・調達マネジメント、EC事業強化、不採算店舗の撤退などを施策としております。
海外事業は、特に米国物販事業の見直し、外部パートナーとの連携推進、中国におけるライセンス事業強化等を推進しています。
再成長の種まきは、新規IP仕組みづくりや教育領域における新規事業等、IPビジネスへの還流/再活性化に資する取り組みを進めております。
2022年3月期以降は複数キャラクター展開が奏功し、キャラクターポートフォリオに占める『ハローキティ』の比率は2014年3月期の75%から2024年3月期には30%にまで低下しました。
オルカンに銘柄が組み込まれる
オルカンとは、投資信託の銘柄名「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の略称で、全世界(日本を含む先進国・新興国)の株式を主要投資対象としています。
オルカンは、MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円換算ベース)に連動する投資成果をめざすインデックスファンドです。
MSCIとはモルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナルの略称です。MSCI社が世界各国の証券取引所に上場している企業をベースに指数を作ります。MSCIが作成する日本株式の指数はMSCIジャパン・インデックスであり、オルカンの日本株式はこの指数に連動した投資を目指します。
MSCI ジャパン・インデックスの構成銘柄は定期的に見直されます。日本を代表する優良企業の銘柄のみがこのインデックスに含まれるのです。
MSCIは2025年5月13日に、日本株式インデックスの定期見直しを発表しました。新規にIHIとサンリオの2銘柄を採用しました。除外はセイコーエプソンと安川電機の2銘柄です。
日本を代表する銘柄の一つとしてサンリオが選ばれました。
同社は業績が振るわなかった時期を過ぎ、様々な改革の下で再成長期に入ったことがMSCIからも認められたことになります。
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