トヨタ自動車やトヨタ系列の販売店(ディーラー)を金融の面から支える企業がトヨタファイナンス株式会社(以下トヨタファイナンス)です。最近は残価設定型クレジット(残クレ)などで自動車を買う人の割合も増えているという調査もありますが、トヨタファイナンスも、このサービスを提供しています。同社がどのような販売金融ビジネスを行っているのかを深堀します。そのうえで、残価設定型クレジットが業績に及ぼす影響を確認します。
結論
- トヨタファイナンスは融資、個別信用購入あっせん(残価設定型クレジット、分割払いなど)、信用保証、包括購入あっせん(クレジットカード)、商用車のリースなど、幅広い金融ビジネスを展開しています。
- トヨタファイナンスの売上収益に占める割合が高い事業はクレジットカード事業、信用保証事業、個別信用購入あっせん事業(残価設定型クレジット)の順です。
- 残価設定型クレジット(個別信用購入あっせんに含まれる)が営業収益に占める割合は小さいですが、金利が比較的高いので、収益性の高いビジネスです。
トヨタファイナンスのビジネス
トヨタファイナンスは、融資、個別信用購入あっせん、信用保証、包括購入あっせん、商用トラック・バスのリースといった金融事業を行っています。
〇融資は、トヨタ販売店(トヨタ系列のディーラー)に対して行います。
ディーラーが顧客に自動車を販売すると、ディーラーは現金払いで自動車を仕入れます。もし割賦(分割払い)で顧客が購入した場合、顧客からの現金は分割で受け取りますので、仕入れ代金を事前に用意する必要があります。ここに資金需要が生じます。トヨタファイナンスがディーラーに対して融資する(お金を貸す)ことで、資金需要の解消につながります。
トヨタファイナンスは、融資の対価としてディーラーから利息収入を受け取ります。
〇個別信用購入あっせんは、トヨタファイナンスと、自動車を購入した顧客との間の取引です。
顧客がディーラーから自動車を購入する際、ディーラーにではなく、トヨタファイナンスと取引をする場合があります。自動車等の購入金額をトヨタファイナンスが信用調査を行ったうえで、顧客から分割払いで回収を行います。
個別信用購入あっせんの種類は様々あり、残価設定型クレジット(ダイハツ車の場合はワンダフルクレジット、レクサス車の場合はスマートバリュープランという名称)、通常の分割払い、残額据置払いなどの商品を提供しています。
トヨタファイナンスは、対価として顧客から利息収入を受け取ります。
〇信用保証は、トヨタファイナンスと、ディーラーとの間の取引です。
信用保証は、顧客がディーラーから割賦販売(分割払い)により自動車を購入する際、トヨタファイナンスが信用調査を行ったうえで顧客の債務を保証し、回収を行います。
ディーラーが割賦販売を行うと、顧客に対して分割で現金を受け取る債権を保有します。もし、顧客が現金を支払えなくなってしまうと、ディーラーは債権を回収できません。信用保証をつけることで、回収不能になった債権を、顧客に替わってトヨタファイナンスがディーラーに支払います。これを代位弁済といいます。代位弁済した金額は、トヨタファイナンスが顧客から回収を行います。
トヨタファイナンスは、信用保証の対価として、ディーラーから保証料を受け取ります。
〇包括信用購入あっせんは、クレジットカードに関連する事業です。
〇リースは、日野販売会社等を代理店とした商用トラック・バス他各種車両のリース業務です。
代理店で商用トラック・バスの契約が取れると、トヨタファイナンスは車両の購入を行います。
購入した車両を顧客に引き渡し、定期的にリース料を受け取ります。
トヨタファイナンスの事業構成
同社は単一セグメントであるため、上記のビジネスごとの収益性は明らかにできません。セグメント情報はありませんが営業収益の情報があるので、第35期有価証券報告書(2022年4月1日から2023年3月31日)に掲載されている事業の構成比をみていきます。構成比をみることで、事業の基盤を把握できます。
金額は2022年度のものを使用しております。金額の単位は百万円です。
営業収益 | 営業収益構成比 | |
---|---|---|
融資 | 3,099 | 1.2% |
個別信用購入あっせん | 14,819 | 5.8% |
信用保証 | 56,679 | 22.0% |
包括信用購入あっせん | 61,913 | 24.0% |
リース | 84,920 | 33.0% |
その他 | 36,012 | 14.0% |
営業収益に占める割合が最も大きい事業はリースの33%です。注意が必要な点はリースの営業収益はリース料の受取額に相当する金額であり、連結損益計算書にリース料に相当するリース原価(商用車の仕入値のうち、当期に計上されたリース料(売上高)に対応する原価(売上原価))が記載されております。他の項目は利息の支払い額や信用保証リスクが原価に相当しますが、売買取引に類似したリースの原価と、金融取引の原価では性質が異なります。
そこで、リースについては、営業収益からリース原価を差し引いた数値を使い、改めて構成比を計算します。
営業収益(リース利益) | 構成比 | |
---|---|---|
融資 | 3,099 | 1.7% |
個別信用購入あっせん | 14,819 | 8.2% |
信用保証 | 56,679 | 31.6% |
包括信用購入あっせん | 61,913 | 34.5% |
リース利益 | 7,003 | 3.9% |
その他 | 36,012 | 20.0 |
営業収益のうち、最も割合が大きい事業は包括信用購入あっせんの34.5%です。営業収入はクレジットカードカード会員や加盟店からの「手数料」によって得られます。2022年度のクレジットカードの取扱高が6,517,611百万円(6.5兆円)であり、0.95%程度の手数料を得ていると考えられます。
次に割合が大きいものが信用保証の31.6%です。保証料収入から得られたものが営業収益です。同社の2023年3月末の保証債務残高が4,264,769百万円(4.26兆円)であり、1.33%程度の保証料を取っていると考えられます。
例えば、顧客が300万円で自動車を購入し、ディーラーが割賦により販売を行った場合、ディーラーは3,000,000円×1.33%=39,900円の保証料をトヨタファイナンスに支払います。万がディーラーが債権の回収を行えなくなった場合、トヨタファイナンスはディーラーに債権の残額を支払います。
3番目が個別信用購入あっせんの8.2%です。残価設定型クレジットや分割払いから生じる利息の合計が営業収益となります。同社の2023年3月末の個別信用購入あっせんに関する割賦売掛金が303,176百万円であり、4.89%程度の利息を取っていると考えられます。
残クレが営業収益に占める割合は小さいですが、金利が比較的高いので、同社にとって収益性の高いビジネスであることがわかります。
下記に、各事業で使用する資産(信用保証のみ信用保証残高を記載)を示します。金額の単位は百万円です。
資産・信用保証残高 | 連結B/S科目名 | |
---|---|---|
融資 | 799,031 | 営業貸付金 |
個別信用購入あっせん | 303,176 | 割賦売掛金 |
信用保証 | 4,264,769 | オフバランス |
包括信用購入あっせん | 554,789 | 割賦売掛金 |
リース | 221,970 | リース債権 |
トヨタファイナンスの業績
トヨタファイナンスの業績を確認します。金額の単位は百万円です。
営業収益 | 最終利益 | 利益率 | |
---|---|---|---|
2018年度 | 180,853 | 19,340 | 10.7% |
2019年度 | 200,490 | 17,254 | 8.6% |
2020年度 | 238,840 | 15,923 | 15.0% |
2021年度 | 239,138 | 28,844 | 12.1% |
2022年度 | 257,443 | 33,883 | 13.2% |
平均すると10%以上の当期純利益率を達成していることがわかります。
同社は金融事業を展開するので、資金調達が各種商品の原価に相当します。連結貸借対照表2023年3月末の固定負債には、社債405,000百万円(4,050億円)、長期借入金693,394百万円(6,930億円)が計上されています。連結損益計算書には社債利息が445百万円、支払利息が4,168百万円なので、金利はそれぞれ0.1%と0.6%です。
低い金利で資金を調達し、それをクレジットカード、信用保証、残価設定型クレジットや融資などの原資にしています。金利収入>支払利息であり、貸倒れの水準が低いのであれば利益を獲得できます。
今後、残価設定型クレジットの構成割合が高まると、さらなる収益性の向上が期待できます。
参考
残価設定ローンで車を買う人の割合

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