日本郵政株式会社(以下日本郵政)は日本郵便株式会社、株式会社ゆうちょ銀行、株式会社かんぽ生命を子会社に持つ純粋持株会社です。
完全子会社である日本郵便は2025年6月5日にトラックなど一般貨物自動車を使う郵便局で点呼の実施が不適切だったとして、貨物自動車運送事業法による一般貨物自動車運送事業の許可を取り消す方針を国土交通省が発表しました。
日本郵便は郵便局や郵便ポストなど、日常生活になじみ深い企業です。日本郵便が日本郵政全体の業績にどの程度のインパクトを及ぼす存在であるのかを確認します。
結論
- 日本郵政の経常利益が約6,680億円に対し、日本郵便のセグメント利益は約85億円であり、全体の1.2%を占めるにすぎません(2024年3月期)。
- 日本郵政の稼ぎ頭はゆうちょ銀行です。利用者から預かった多額の貯金を、低リスクの国債などで運用し、利息を得ています。
- 日本郵便単体では、日本郵政への業績に及ぼすインパクトはほとんどありません。しかし、全国に設置した直営の郵便局が20,143局あり、郵便貯金や保険の窓口を設置することで、貯金者や保険加入者を増やします(2024年3月31日時点)。しかたがって、日本郵政グループの業績に間接的に貢献します。
日本郵政の連結財務諸表
日本郵政の2024年3月期の有価証券報告書を用いて、2024年3月31日の連結貸借対照表を見ていきます。
総資産は298,689,150百万円(約298兆円)です。資産の内訳は、有価証券194,744,045百万円(約194兆円)、現金預け金59,507,482百万円(59兆円)のように、253兆円を流動性の高い資産で保有しております。
負債及び純資産を確認します。負債は282,950,619百万円(約282兆円)、純資産は15,738,530百万円(約15兆円)なので、資産の大部分を負債によって調達していることがわかります。負債は内訳は、貯金190,873,061百万円(約190兆円)、保険契約準備金50,512,792百万円(約50兆円)です。
次に、連結損益計算書です。
経常収益(売上高)が11,982,152百万円(約12兆円)、経常費用が11,313,835百万円(約11兆円)で経常利益が668,316百万円(約6,680億円)です。
最終利益が268,685百万円(約2,680億円)でした。
日本郵政のセグメント業績
日本郵政の2023年4月1日から2024年3月31日のセグメント業績を見ていきます。金額の単位は百万円です。
経常収益 | 利益 | 資産 | |
---|---|---|---|
郵便・物流事業 | 1,980,509 | △64,969 | 1,958,795 |
郵便局・窓口事業 | 1,113,912 | 73,490 | 2,563,772 |
国際物流事業 | 450,023 | 1,713 | 374,938 |
銀行業 | 2,651,686 | 496,038 | 233,906,263 |
生命保険業 | 6,744,227 | 160,915 | 60,855,899 |
日本郵便が担うセグメントは郵便・物流事業、郵便局・窓口事業です。2つのセグメントの経常収益(売上高)を合計すると3,093,321百万円(約3兆円)、利益は8,521百万円です。資産合計は4,522,567百万円(約4.5兆円)です。
日本郵政の事業に占める日本郵便の業績は微々たるものであることがわかります。資産においても日本郵政の全体の中のごく一部の資産が郵便局・窓口で使用する郵便局の建物や、郵便・輸送事業で使用する輸送設備で構成されております。
利益と資産が最大のセグメントが、ゆうちょ銀行が担う銀行業です。利益は496,038百万円(4,960億円)、資産は233,906,263百万円(約233兆円)です。
ゆうちょ銀行は顧客から貯金を預かります(貯金として負債に計上)。貯金を元手に国内の有価証券を60,455,794百万円(60兆円)保有しています。利回りは0.38%です。利回りは小さいですが額が大きいので、利息が230,430百万円(約2,300億円)もたらされます。
また、海外の有価証券を81,379,103百万円(約81兆円)保有しています。利回りは1.36%で、1,113,437百万円(約1.1兆円)の利息が得られます。
合計すると有価証券が141,834,897百万円(約141兆円)、利回りが0.94%、利息が1,343,868百万円(約1.34兆円)です。利回りが小さいのは、有価証券の大部分を国債や外国の投資信託で運用しているためです。
なお、利息約1.34兆円はゆうちょ銀行にとっての経常収益(売上高)となります。このほかに金銭の信託運用益が1,007,703百万円(約1兆円)が経常収益に計上されております。これは、投資信託を販売する際の手数料や信託報酬を収益としております。
最後に生命保険事業を行うかんぽ生命です。売上高はセグメントで最大の6,744,227百万円(6.7兆円)です。利益も160,915百万円と、かなりの稼ぎ頭です。
日本郵政の業績における日本郵便の貢献
日本郵便は、全国に約20,143局の直営の郵便局を展開しております。郵便局の窓口は、ゆうちょ銀行やかんぽ生命保険にとって、顧客と接するネットワークになります。
郵便局の窓口を通じて、金融商品や保険商品の案内、申し込み手続き、アフターフォローなどが行われます。この体制により、特に高齢者や地方在住者など、デジタル環境にアクセスしづらい層へのサービスにつなげることができます。
日本郵便は、日本郵政グループ全体の売上高の約25%程度を占めていますが、利益面ではゆうちょ銀行やかんぽ生命保険が主要な収益源となっています。
日本郵政の経常利益が約6,680億円です。このうち、ゆうちょ銀行がグループ利益の約74%(4,960億円)を、かんぽ生命保険が約24%(1,609億円)を占めています。一方日本郵便は1.2%(85億円)にすぎません。
日本郵便は収益面では直接的な貢献は少ないものの、顧客接点の提供や営業支援を通じて、グループ全体の業績に間接的に寄与しています。
日本郵便の運送事業の許認可問題の取り消しにより、日本郵政全体の業績に直ちに大きな影響を及ぼすことはないと考えられます。
一方で、もし郵便局の利用者数が減少し、それが貯金・投資信託・保険加入者の減少につながることになれば、超長期的には業績に悪影響を及ぼす可能性がでてきます。
参考
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